キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
キリによって四つ解かれた封印。

もしも聖剣の九つの封印が、一千年前の段階では一つもほどこされておらず、この聖剣の本来の力を戦争に用いたのだとすれば──

それは霧のヴェズルングの魔法の力にも匹敵する、圧倒的な戦力となり得る気がした。


そうだ、と彼は思う。

こんな武器があれば、キリの魔法を戦争に用いる必要はない。

ドラゴンすらも打ち倒したこの剣さえあれば、ただの一薙ぎで、戦場で数千もの軍を斬りはらうことができるだろう。


「その武器を戦争に用いる気ならばやめておけ」

と、ラグナードの心を見透かしたかのように、ジークフリートが言った。

「何者かは知らぬが、その剣を封じた者の判断は正しい」

やはりジークフリートも、剣の刻印が魔法の封印であると見てとった様子だった。

「それは、災いを招く剣だ」

天の魔法使いはそんなことを口にした。

「なんだと?」

「わからぬか。もしもその武器が戦争で使用され、その力を多くの人間が目にすれば、地上に住む人間どもはどうしようとする?」

ラグナードははっとする。

「誰もがその剣を手にしようとして、流血の奪い合いが起きるぞ」

と、ジークフリートは言った。


こんな武器は、有しているだけで他国への脅威になる。

どの国もが欲しがることは火を見るより明らかだった。

ジークフリートの言うとおり、ガルナティス王国にこんな剣があると他国に知れ渡れば、世界中の国が手に入れようと奪いに来るだろう。


「確かに、戦争で使うわけにはいかないな」


ラグナードは不自由なものだと思った。

どんな軍をも打ち破れる武器だというのに。


なるほどこの剣に九つの封印をほどこした者は、剣の力が使われることによる無用の争いを防ごうとしたのかもしれなかった。





飛行騎杖を置いてきた場所までもどると「移動するのならば、我が背に乗せて運んでやろう」と、ジークフリートは提案した。

キリは大喜びしたが、ラグナードは自分がドラゴンの背に乗って王都に凱旋した場合を冷静に想像してみた。


民衆は大いに驚き、ドラゴンを従えた王子は英雄視されることだろう。

それはなかなか気持ちよさそうで魅力的に思えたが──


同時に、多くの民と三百の兵を殺したこのドラゴンを殺せという声が上がるのも必至だった。


当然、誇りを取りもどすまで殺される気などないこのドラゴンは抵抗するに決まっている。

もしもドラゴンが暴れて、王都が丸ごと氷漬けにでもされたら──


「ダメだ! 絶対にそれはダメだ」

ラグナードは断固としてその提案を却下した。

「ジークフリート、おまえは城に着いても絶対にドラゴンの姿にはなるな。そのまま人間の魔法使いのふりをしていろ」

「心得た」

ジークフリートが了解して、

「えー!」

と、キリが不満の声をもらした。
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