キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「やだやだ。わたし天の人の背中に乗って飛んでみたい」

「……そう言うがな、おまえ、ドラゴンの背中のどこに乗るつもりだ?」

ラグナードはドラゴンの姿や、間近で見た空中での動きを思い描きながら言った。

「そりゃ、やっぱり翼の間のあたりかな」

「飛行騎杖の翼と違って、こいつは羽ばたくんだぞ?」

激しく翼を打ち鳴らして空に舞い上がる竜の背中のそんな場所に乗っていたら、もみくちゃになるか振り落とされるのが目に見えていた。

「じゃあ首のあたり」

「おまえ、馬にも乗ったことないんじゃないのか?
動く生き物の上に乗るんだぞ。
鞍もなしにドラゴンの首にまたがって、ずっとしがみついていられるのか?」

ラグナード自身は、もちろん相手がドラゴンであろうと振り落とされずに乗っていられる自信があるのだが。


キリが黙りこんだ。

それでも彼女はあきらめきれずに、腕組みをして竜の背中に乗る方法を探していたが、やがてどう考えても彼女の体力では飛空騎杖のほうが安全に快適な空の旅ができるということを受け入れた。


雪の服を着ていることを除けば、人間にしか見えない銀髪の少年をながめて、それに……とラグナードは思う。

もしも、このパイロープの黒幕を探すなら、ドラゴンは退治したということにしておいて、ジークフリートの正体は隠したまま連れ帰ったほうが都合がいいだろうと。



さて、いざ騎杖で王都へと移動しようとして、問題が起きた。

特注品の飛行騎杖は、ぎりぎり三人ならなんとか乗れそうだった。

「ジークフリート。おまえも魔法使いなら、騎杖を飛ばすことはできるはずだな」

そこで、ラグナードは当然のようにそう考えたのだが──

ジークフリートを乗せても、杖はうんともすんとも言わなかった。

「杖って地上の魔法使いにしか飛ばせないのかな」

キリも首をかしげたが、

そういうことではなく、自らの体そのものを変化させる魔法に特化した彼ら天の魔法使いには、こういった魔法の道具を使いこなすのが難しいのだとジークフリートは説明した。

結局、ジークフリートの魔力で王都まで帰ることはできず、キリが回復するまでこの町で休むことになった。



「聞いておきたい」

いまだ冷気が漂う町で、日当たりの良い広場に飛行騎杖を置いて三人並んで座り、ラグナードは温かな日差しを浴びてぼーっと空の上のゴンドワナを見上げるキリに向かって口を開いた。

「魔王ロキとの契約についてだ」

ずっと気になっていたことだった。

「それは我も詳しく聞いておきたいものだな」

と、ジークフリートも言った。

キリに命を助けられた恩義があるためか、声音から軽蔑をふくんだ冷ややかさはなくなっていた。
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