キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「おまえが、ロキだと……?」
老人は、
目の前の魔法陣の上に立つ影を、上から下までながめ回した。
憎悪すべきこの師が、
何にそんなにも驚き、狼狽しているのか
このときのキリには理解できなかったが、
「その姿は──いったい……?」
エリゼ・ド・シムノンはかすれた声でそう言ったきり、絶句した。
ふふふ、と影は目を細めて笑った。
「望みを言え」
と、美しい唇が動いて、高らかに命じた。
「この世の者にとってのいかなる不可能でも、余が叶えてやろう」
惚(ほう)けていた老人が、はっと魂の戻った目になる。
「魔法使いよ、おまえはそれだけの価値のあることをなしとげたのだ。
報いてやろうぞ」
「おお──」と、ひび割れた老人の口から狂喜の音がもれ出でた。
「さあ、なにがほしい? なにを望む?」
ごくり、と
がさがさの岩のような老人ののどが動くのを、キリは見た。
「余は全知無能のエコルパールの悪魔。
しかし世界に招かれたその時のみは、全知にして全能の存在。
おまえを神にでも──悪魔にでもしてやるぞ」
悪魔が神のごとくささやき、
老人の瞳が若者のように希望に充ち満ちて輝いて、
かっと、
キリの頭に血が上った。
すべてが、紫色の光の中にあった。
神秘の夜に行われた呪われた儀式を、
魔法陣の放つまがまがしき紫の輝きが下から照らしていた。
望みを口にする老人と、
影法師のようにたたずむ黒い来訪者と、
血の池の中に横たわる友達を──
自らの意志に反して、
自らの手で刺し殺したたった一人の友人を──
七歳のキリはじっと見つめている。
息のつまる濃霧の白と紫の光がまじりあう、大ごもりの夜だった……。
エリゼ・ド・シムノンがその禁断の書物を見つけたのは、
彼の齢が百五十を超えたころのことである。
老人は、
目の前の魔法陣の上に立つ影を、上から下までながめ回した。
憎悪すべきこの師が、
何にそんなにも驚き、狼狽しているのか
このときのキリには理解できなかったが、
「その姿は──いったい……?」
エリゼ・ド・シムノンはかすれた声でそう言ったきり、絶句した。
ふふふ、と影は目を細めて笑った。
「望みを言え」
と、美しい唇が動いて、高らかに命じた。
「この世の者にとってのいかなる不可能でも、余が叶えてやろう」
惚(ほう)けていた老人が、はっと魂の戻った目になる。
「魔法使いよ、おまえはそれだけの価値のあることをなしとげたのだ。
報いてやろうぞ」
「おお──」と、ひび割れた老人の口から狂喜の音がもれ出でた。
「さあ、なにがほしい? なにを望む?」
ごくり、と
がさがさの岩のような老人ののどが動くのを、キリは見た。
「余は全知無能のエコルパールの悪魔。
しかし世界に招かれたその時のみは、全知にして全能の存在。
おまえを神にでも──悪魔にでもしてやるぞ」
悪魔が神のごとくささやき、
老人の瞳が若者のように希望に充ち満ちて輝いて、
かっと、
キリの頭に血が上った。
すべてが、紫色の光の中にあった。
神秘の夜に行われた呪われた儀式を、
魔法陣の放つまがまがしき紫の輝きが下から照らしていた。
望みを口にする老人と、
影法師のようにたたずむ黒い来訪者と、
血の池の中に横たわる友達を──
自らの意志に反して、
自らの手で刺し殺したたった一人の友人を──
七歳のキリはじっと見つめている。
息のつまる濃霧の白と紫の光がまじりあう、大ごもりの夜だった……。
エリゼ・ド・シムノンがその禁断の書物を見つけたのは、
彼の齢が百五十を超えたころのことである。