キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
永遠の命。

追ってもせんなきものだ。
そんなことはわかりきっていた。

かつて幾人の者がそれに手を伸ばそうとしてきたか。

そして届かず、絶望と諦念を抱いて死んでいったことか。


そんなことは、
魔法使いであり、賢者である彼は、いくつもの書物で読んで知り尽くしていた。


ばかげている!

永遠の命など!


それは死の影から遠くはなれていた若き日の彼が
侮蔑し、
あざ笑い、
求める人のおろかしさ、あさましさを、誰よりも忌み嫌っていたものだった。


その彼自身が、
永遠の時間を死にもの狂いで求めたのだ。


己は、
手を伸ばし失敗して命尽きた、過去の凡百の塵芥(ちりあくた)のような俗物どもとは違う。

ここは世界中の叡智が結集するエスメラルダで、自分は賢者と呼ばれる魔法使いだ。

すべての魔法が自分の中から流れ出でて失われてしまう前に、己ならばきっと方法を見つけることができる。


そうだ。

かならずなにか。

なにか方法が──。


死にたくない。
若さが、
命がほしい。

生き続けなければ。


狂乱のような生への執着の中で、

なりふり捨てた彼がまず最初にしたのは、エスメラルダ教皇オズとの謁見(えっけん)だった。


当然といえば当然のごとく、

すぐ間近にある永遠に、すがろうとした。



しかしその試みはあっけなく失敗に終わる。




うつくしいステンドグラスから、色とりどりの冷たい光が差しこんでいた。


今のエスメラルダは、ただ魔法の教えを探究する国であるというだけの「魔法教国」の名を持ち、信仰とは何の関係もないが、

かつて魔法が「魔の法」とは呼ばれず、神より与えられた奇跡のわざとして深く宗教と結びついていた古代に、「神聖」エスメラルダの名であったなごりで、

国家としてのエスメラルダのヒエラルキーは、今でも教会の階級制の形をとっている。

そして、空中都市の数々の建物もまた、宗教的な様相を呈していた。


エスメラルダの中心にそびえ立つ、そんな太古のなごりの象徴とも言うべき大地母神の大聖堂。


床も、
壁も、
立ちならぶ柱も、

はめ殺しの色硝子以外のすべてが純白の大理石で造られた、まっ白な謁見の間で、


「猊下(げいか)、どうか私を次代のオズに……!」


そうこいねがったシムノンに、

跋折羅眼(バザラがん)の教皇は「それはできぬ」と、シムノンも想像していたとおりの拒絶を返した。


「オズはすべての魔法使いにとってのいけにえだ。
その犠牲に、みずから進んでなろうという献身はすばらしいが」


シムノンの胸の内などまったく知りもせずに、

ステンドグラスのような無機質の虹色の輝きに彼を映して、
白い大理石のような無機質の声音で淡々と、
オズは何の感情もこもらない無機質の賞賛をよこした。
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