キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「次代のオズとして魔法に身を捧げるには、エリゼは歳をとりすぎている」
そんなことは、わかりきっていた。
「オズの継承者はかならず子供でなくてはならぬ」
そう口にする教皇は、十五か、六か──今やシムノンからは失われた若さをなみなみと湛えた少年の姿であった。
シムノンとて、
エスメラルダの教皇オズという存在がどういうものかは理解している。
「ならば──」
シムノンは用意していた、より現実的な本命の願いを、ふるえる唇に乗せた。
「どうか私を、猊下の『中』にお加えください。
我が魔法と、私の精神を、『私のすべて』を、どうか永遠のものに──」
しかし、
「それはできぬ」と、その願いに対しても、オズは先とまったく同様の拒絶をした。
「なぜです!」
悲鳴を上げたシムノンに、
「オズという『教典』に、エリゼの魔法と記憶を加えることは可能だが──それはただの情報の転写だ」
虹色の瞳の少年は、シムノンが理解していなかった事柄を語った。
「魔法と記憶を書き写しても、『エリゼ・ド・シムノン』は、そこに、そのまま残る」
細い指で彼を示して、教皇はかんでふくめるようにそう言った。
「エリゼがいう『エリゼのすべて』──精神や自我というものを、本人の肉体からオズの中へと移すことはできぬ。
それは、オズの継承とて同じことだ。
オズはただ情報を伝えるだけ」
希望の灯火が消えて、
がっくりと、シムノンは肩を落としてうなだれた。
それでも、彼はあきらめなかった。
「では──では──」
彼は、今度は目の前にある至高の教典の知識にすがりついた。
「死を超越する、永遠の命の魔法の知識をこの私に……!」
「そんなものはない」
「ばかな!」
思わず、ひざまずいていた足を伸ばして彼は立ち上がった。
「二千年にもおよぶオズの知識の中にも、ないというのか……!」
オズとは、
生ける魔道書だ。
男ならばオズ、
女ならばオズマ。
いつの時代もそう名づけられた人の形の器の中に、
膨大な魔法と知識を詰めこみながら、脈々と受け継がれてきた魔法の教典。
「教皇」とはよく言ったもので、
オズは、まさに神秘の教えを過去から未来へと伝えるためだけの王であった。
その膨大な魔法の中にも、永遠は存在しないというのだろうか。
「過去には生死をつかさどる属性の魔法使いもいたはず!」
ステンドグラスのような寄せ集めの無数の色彩の瞳を、シムノンはにらんだ。
「いた」
「ならば」
「いたが、その魔法はエリゼには使えぬ。エリゼの属性は『毒』だ」
と、オズはシムノン自身が忌み嫌う彼の属性を指摘した。
シムノンは、かさかさの枯れ葉のようになった唇をかみしめた。
そんなことは、わかりきっていた。
「オズの継承者はかならず子供でなくてはならぬ」
そう口にする教皇は、十五か、六か──今やシムノンからは失われた若さをなみなみと湛えた少年の姿であった。
シムノンとて、
エスメラルダの教皇オズという存在がどういうものかは理解している。
「ならば──」
シムノンは用意していた、より現実的な本命の願いを、ふるえる唇に乗せた。
「どうか私を、猊下の『中』にお加えください。
我が魔法と、私の精神を、『私のすべて』を、どうか永遠のものに──」
しかし、
「それはできぬ」と、その願いに対しても、オズは先とまったく同様の拒絶をした。
「なぜです!」
悲鳴を上げたシムノンに、
「オズという『教典』に、エリゼの魔法と記憶を加えることは可能だが──それはただの情報の転写だ」
虹色の瞳の少年は、シムノンが理解していなかった事柄を語った。
「魔法と記憶を書き写しても、『エリゼ・ド・シムノン』は、そこに、そのまま残る」
細い指で彼を示して、教皇はかんでふくめるようにそう言った。
「エリゼがいう『エリゼのすべて』──精神や自我というものを、本人の肉体からオズの中へと移すことはできぬ。
それは、オズの継承とて同じことだ。
オズはただ情報を伝えるだけ」
希望の灯火が消えて、
がっくりと、シムノンは肩を落としてうなだれた。
それでも、彼はあきらめなかった。
「では──では──」
彼は、今度は目の前にある至高の教典の知識にすがりついた。
「死を超越する、永遠の命の魔法の知識をこの私に……!」
「そんなものはない」
「ばかな!」
思わず、ひざまずいていた足を伸ばして彼は立ち上がった。
「二千年にもおよぶオズの知識の中にも、ないというのか……!」
オズとは、
生ける魔道書だ。
男ならばオズ、
女ならばオズマ。
いつの時代もそう名づけられた人の形の器の中に、
膨大な魔法と知識を詰めこみながら、脈々と受け継がれてきた魔法の教典。
「教皇」とはよく言ったもので、
オズは、まさに神秘の教えを過去から未来へと伝えるためだけの王であった。
その膨大な魔法の中にも、永遠は存在しないというのだろうか。
「過去には生死をつかさどる属性の魔法使いもいたはず!」
ステンドグラスのような寄せ集めの無数の色彩の瞳を、シムノンはにらんだ。
「いた」
「ならば」
「いたが、その魔法はエリゼには使えぬ。エリゼの属性は『毒』だ」
と、オズはシムノン自身が忌み嫌う彼の属性を指摘した。
シムノンは、かさかさの枯れ葉のようになった唇をかみしめた。