キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
己の属性という制約は、どの魔法使いにとっても枷(かせ)となるものではあるが、

「毒」という魔法の属性を、シムノンはどれほどいまわしく思ってきたことだろう。


自分の属性を知ったときから嫌悪し続けたそれを、

こと、死を恐れ生に執着してから、
シムノンはいっそう憎らしくいまいましく思うようになっていた。


毒。

生き物から命を奪い、
死に向かわせる、

なんとまがまがしいものであることか。


皮肉すぎる話だった。


生を渇望するシムノン自身が、まったく真逆の魔法使いとは。


「そして、生死の魔法も永遠はもたらさない」

「そんな!」

「生死の魔法使いも死ぬ」


半狂乱のシムノンに、オズは、


「二千年にわたるオズの知識の中にも、かつてこの世に生まれ落ちて死ななかった者の記録はない」


と、当たり前の──

魔法使いでなくとも、
誰もが知る至極わかりきったことを──


──なんの救いもなく突きつけた。


死なぬ人間はいない。

過去のどんな人間も、みな死んでいった。


明快な答えだった。


落胆し、謁見の間を後にしようとしたシムノンの背中に、

「オズとは、しょせんは人の知識」

広々とした床一面に刻まれた魔法陣の中心に据えられた教皇の座から、少年の声が届いた。


「客人(まろうど)を招いてたずねるがよい」


シムノンは教皇をふり返った。

「まろうど……」

「オズの記録には記されていないが、永遠は、存在しないわけでもない」

シムノンはその場に立ったまま、食い入るように教皇を見つめた。

「世界の始まりからずっといる者たちも、たしかに存在する」

シムノンは、聖堂の天井に描かれたモチーフを仰いだ。


「神と、悪魔だ」


神聖が失われて久しいエスメラルダの中心で、

この場の見た目だけにはいかにもふさわしい宗教的な二つの単語を、教皇は口にした。


「神は語らぬが、悪魔ならば」


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