キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
──ほどなくして、
探し求めていた目的物──嵐の森の中にこつぜんと現れた小さな家の前で、騎士は足を止めていた。
あれ狂う樹木に埋没するかのようにして
ぽつねんとたたずむ、古びた煉瓦造りの家。
そのしめきられた雨戸のすき間からは、
──こんな深い深い森の奥地に、いったい誰が何の目的で住んでいるのか──
ぬれそぼり歩き疲れた旅人を引きよせるように、暖かそうなオレンジ色の明かりがもれている。
そして、
家の中からは
どん、どん、という不気味な重低音がひびいていた。
彼は足早に家の入り口へと近寄る。
かぶっていた雨よけの布のフードをはぎとり、
腰に帯びた剣の柄(つか)に手をかけて、
慎重に中をうかがった。
カシの木の扉の向こうからは、たしかな人の気配が伝わってくる。
どん、どん、という規則正しい音が続いている。
何の音だ……?
声には出さずに胸の中でつぶやき、
首をひとひねりして、
意を決し、
彼は目の前の扉をたたいた。
雨風にさらされながら待つことしばし──
扉はいっこうに開く気配がない。
吹きすさぶ風と雨音にかき消されて聞こえないのか。
それとも中から断続的に聞こえている謎の音にまぎれてしまったのか。
「おい! 誰かいるんだろう!?」
再度扉をたたきながら大声で呼びかけてみる。
家の中からは変わらず、『鈍器で何かをなぐっているかのような』謎の音が聞こえてくるばかりだった。
「開けるぞ──」
しびれをきらして、
片手を剣の柄に置いたまま、鎧武者は扉の取っ手に手をかけた。
ゆっくりと引く。
鍵はかかっておらず、
ぎぎい、と
耳障りなきしみを上げながら、あっさり扉は開いた。
さえぎるものを失って、
どん、どん、という音がはっきりと耳に届いた。
開けはなたれた入り口から、中の暖かな明かりがもれいでてくる。
一歩中へと足を踏み入れ、暖色の灯火に照らされた光景を目にして、
「う……っ!?」
口もとを手で覆い、訪問者はうめいた。
激しく肺がけいれんを起こし、その場でむせかえる。
どん、どん、という音が止まった。
訪問者に気づいて、
家の中にいた人物が、
手にした凶器を振り上げたまま、入り口に視線を向ける。
探し求めていた目的物──嵐の森の中にこつぜんと現れた小さな家の前で、騎士は足を止めていた。
あれ狂う樹木に埋没するかのようにして
ぽつねんとたたずむ、古びた煉瓦造りの家。
そのしめきられた雨戸のすき間からは、
──こんな深い深い森の奥地に、いったい誰が何の目的で住んでいるのか──
ぬれそぼり歩き疲れた旅人を引きよせるように、暖かそうなオレンジ色の明かりがもれている。
そして、
家の中からは
どん、どん、という不気味な重低音がひびいていた。
彼は足早に家の入り口へと近寄る。
かぶっていた雨よけの布のフードをはぎとり、
腰に帯びた剣の柄(つか)に手をかけて、
慎重に中をうかがった。
カシの木の扉の向こうからは、たしかな人の気配が伝わってくる。
どん、どん、という規則正しい音が続いている。
何の音だ……?
声には出さずに胸の中でつぶやき、
首をひとひねりして、
意を決し、
彼は目の前の扉をたたいた。
雨風にさらされながら待つことしばし──
扉はいっこうに開く気配がない。
吹きすさぶ風と雨音にかき消されて聞こえないのか。
それとも中から断続的に聞こえている謎の音にまぎれてしまったのか。
「おい! 誰かいるんだろう!?」
再度扉をたたきながら大声で呼びかけてみる。
家の中からは変わらず、『鈍器で何かをなぐっているかのような』謎の音が聞こえてくるばかりだった。
「開けるぞ──」
しびれをきらして、
片手を剣の柄に置いたまま、鎧武者は扉の取っ手に手をかけた。
ゆっくりと引く。
鍵はかかっておらず、
ぎぎい、と
耳障りなきしみを上げながら、あっさり扉は開いた。
さえぎるものを失って、
どん、どん、という音がはっきりと耳に届いた。
開けはなたれた入り口から、中の暖かな明かりがもれいでてくる。
一歩中へと足を踏み入れ、暖色の灯火に照らされた光景を目にして、
「う……っ!?」
口もとを手で覆い、訪問者はうめいた。
激しく肺がけいれんを起こし、その場でむせかえる。
どん、どん、という音が止まった。
訪問者に気づいて、
家の中にいた人物が、
手にした凶器を振り上げたまま、入り口に視線を向ける。