キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
言うなり、
キリはブローチを目に押し当てて、片眼鏡(モノクル)をのぞきこむようにして赤い石ごしにまっ白な天の人をながめる。

赤い視界の中で、ジークフリートはうすく燐光を放って見えた。


「あ、処女だー」

「女ではないが、処女というのか?
たしかに我はまだ子供だから、卵を作ったことはないが」

ジークフリートがまじめにそう説明した。

「天の人って、卵を産むの?」


キリはブローチから目を離して、綺麗な少年をしげしげと観察した。


「ジークフリート、せっかくだから今月分の生贄に捧げてもいい?」

「やめてくれ!」


さすがの天の人も、この頼みは必死な声になって拒否した。


「そもそも我は女ではないぞ!」

「んー。確かに、捧げるのは美しい女が望ましいって言われてるけど、高貴な者が特に好物だって言ってたから、汚れのない体の天の人とか王族とか貴族とかなら、男でもいいんじゃないかなー」


言いながらキリの目がラグナードのほうを向いて、ブローチをのぞきこんだ。


「ラグナードは処女かな?」


ぽいっと、ラグナードはキリからブローチをひったくって投げすてた。


「あー!」


キリが悲しそうな声を出した。


キリはラグナードが放り投げたブローチを大急ぎで追いかけて、大切に拾い上げて胸に戻して、


「なにするのー!?」


もどってきてラグナードをにらんだ。


「うるさい! 捨てろ! 捨ててしまえ、そんなもの!」


ラグナードはわめいた。


「やっぱり悪いことをしてるんじゃないか! 悪い魔女じゃないか!」


「ええー?」と、キリは口をとがらせた。


「悪いことしてないよ! わたしは偉大な魔法使いになるんだもん」

「他人を魔王のエサにするのは悪いことだッ」

「ええー!?」

「偉大な魔法使いは毎月魔王に他人を食わせたりしないッ」


あ、とキリは何かを思い出した様子で口に手を当てて、それから「そうだった、そうだった」と手を打った。


「忘れてたんだけど」

「なんだ!?」

「あのね、『この契約内容が多くの者に知れ渡ると、おまえの望みを叶えることが難しくなる。だから決して他の者に余と契約のことは話してはならぬ。さもなくば余は契約を守るために、おまえが秘密をもらした相手の口を封じなければならなくなる』って、わたし言われてたんだった」

「…………」


ラグナードとジークフリートは戦慄し、絶句した。

サアッと音でも立てるようにして、二人の顔から血の気が失せる。


「だからねー」

キリは相変わらずほがらかな笑顔で、のんびりと言った。

「ラグナードもジークフリートも、他の人にはこのことは内緒にしててね。
じゃないと二人とも、殺されちゃうかもしれないから」

「おいッ」


ラグナードはまたしても泣きそうになった。
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