キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「『じゃないと』って……もう殺されるんじゃないのか! ダメなんじゃないのか!
おまえ、俺たちに秘密をもらしたぞ!」
とんでもない災難を聞いてしまったとラグナードは思った。
まさか魔王に殺される運命が待っていようとは。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。
ロキは優しいから、黙っていればきっと殺さずにいてくれるよ」
どこまでも無責任に、軽い口調で言って魔王と契約した魔女がほほえんだ。
「なにが大丈夫なんだ!? 優しい悪魔など聞いたこともないぞ!」
半ばパニックに陥りながらどなったラグナードに、
「ロキは──悪魔じゃないよ」
キリは語気を強めて、そんなことを言った。
「ロキは人だよ。霧の人」
そう言って、キリは目を閉じる。
降り注ぐあたたかな日差しは、脳裏にうかんだ青年の温もりと重なる気がした。
その横顔をラグナードはじっと見つめる。
やっていることは極悪非道だが、キリには悪意がない。
口では悪い魔女だと罵ったものの、
やはりラグナードには、キリが心底悪い娘だとは思えず、
彼女を嫌う気持ちも起きなかった。
キリは、七歳で師匠も失って一人きりになり、どうやってその後の十年間を生きてきたのだろうかと、ふと疑問がかすめる。
あの森の中の小さな家で、たった一人で生きてきたのだろうか。
だとすれば──善悪が欠如した彼女の性格は、誰もそれを教えてくれる者がいなかったからではないか。
それでも、彼女は優しい少女に育ち、ラグナードとガルナティスを救ってくれた。
出会ってからこれまでキリと一緒にいて、ラグナードは王宮では感じたことのない安らいだ気分を味わっていた。
城で彼を取り巻く人間たちとは明らかに違い、なぜなのか──この少女のそばは不思議なほど居心地がよかった。
そんなことを考えて、
ずいぶんと少女に興味を持ってしまっていると、ラグナードはあらためて再認識する。
こんな変な女に──
と苦笑して、
ラグナードはキリに渡すと約束した杖をどうするかの、王宮にもどってからの手順を頭の中で整理した。
おまえ、俺たちに秘密をもらしたぞ!」
とんでもない災難を聞いてしまったとラグナードは思った。
まさか魔王に殺される運命が待っていようとは。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。
ロキは優しいから、黙っていればきっと殺さずにいてくれるよ」
どこまでも無責任に、軽い口調で言って魔王と契約した魔女がほほえんだ。
「なにが大丈夫なんだ!? 優しい悪魔など聞いたこともないぞ!」
半ばパニックに陥りながらどなったラグナードに、
「ロキは──悪魔じゃないよ」
キリは語気を強めて、そんなことを言った。
「ロキは人だよ。霧の人」
そう言って、キリは目を閉じる。
降り注ぐあたたかな日差しは、脳裏にうかんだ青年の温もりと重なる気がした。
その横顔をラグナードはじっと見つめる。
やっていることは極悪非道だが、キリには悪意がない。
口では悪い魔女だと罵ったものの、
やはりラグナードには、キリが心底悪い娘だとは思えず、
彼女を嫌う気持ちも起きなかった。
キリは、七歳で師匠も失って一人きりになり、どうやってその後の十年間を生きてきたのだろうかと、ふと疑問がかすめる。
あの森の中の小さな家で、たった一人で生きてきたのだろうか。
だとすれば──善悪が欠如した彼女の性格は、誰もそれを教えてくれる者がいなかったからではないか。
それでも、彼女は優しい少女に育ち、ラグナードとガルナティスを救ってくれた。
出会ってからこれまでキリと一緒にいて、ラグナードは王宮では感じたことのない安らいだ気分を味わっていた。
城で彼を取り巻く人間たちとは明らかに違い、なぜなのか──この少女のそばは不思議なほど居心地がよかった。
そんなことを考えて、
ずいぶんと少女に興味を持ってしまっていると、ラグナードはあらためて再認識する。
こんな変な女に──
と苦笑して、
ラグナードはキリに渡すと約束した杖をどうするかの、王宮にもどってからの手順を頭の中で整理した。