キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
天井からつるされたランプの光と
明々と燃える暖炉の火とが、せまい部屋の中を金色に照らしている。


壁一面の書架。

棚におさまりきらず、さらにそこかしこにうずたかく積み上げられた書物。


テーブルの上には怪しげな薬草や薬瓶の数々。

そして床や天井には、魔法陣と呼ぶべき謎めいた不気味な紋様が……。


めくるめく魔法の館(やかた)であった。

館と呼ぶにはこぢんまりとしすぎた家ではあったけれども。


その部屋の真ん中で、

にぎりしめた棍棒の動きを止めて入り口に視線を投げたのは、年の頃なら十六、七歳の少女である。

「あれえ?」

つやつやした唇から、かわいらしい声がもれる。


赤みがかった銀髪は、ストロベリーブロンドというのだろうか。

「どなた?」

ふわふわしたピンク色の髪を揺らし、
灯火をはねかえしきらきらと輝く明るいエメラルドグリーンの瞳に、予期せぬ訪問者を映して、

少女は不思議そうに首をかしげた。


その視線の先で、

「き……貴様、いったいこれは何のマネだ!?」

戸口に立った訪問者は手で口を押さえたまま、
ふるえる声を出した。


こちらは深紅のマントに身を包み、白銀の鎧をまとった若い騎士である。

やや色あせた、灰白色に近いブロンド。
柔らかな短い髪は、雨に濡れて白い頬に張りついている。

恐怖と不快感に歪められてはいても、その顔は物語や絵画から抜け出してきたかのように美しい。


こんな森の奥の古びた一軒家にはあまりにも不似合いで、

どこかの王宮か貴族の館にでもいそうな、高貴ないでたちの騎士であった。


とつぜんの場違いなこの来訪者をながめて、

少女はたいそう驚いた様子で目を丸くしていたが、やがて小さく顔をしかめた。

嵐の森を歩いてきた鎧武者の足下は泥で汚れ、
ずぶぬれの全身からはぽたぽたと雨水がしたたり落ち続けて、
床に泥の水たまりを作っている。

さらには、
青年の後ろで開け放たれたままになっている入り口からも、ざあざあと外の雨が吹きこみ続けていた。

「ちょっと! 早く扉閉めてくれないかな」

と、口をとがらせて少女は文句を言った。

どうやら床が汚れてゆくのが我慢ならないらしい。


「な──正気か……!?」

平然と言う少女の言葉に耳を疑って、

美しい青年騎士は動こうとせず、凍りついたように立ちつくしていた。


精悍なる淡い紫の瞳の双眸は、少女の手もとの惨状にくぎづけになっている。



惨状。

せまい部屋の中に広がっていたのは、まさしく惨状であった。
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