キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
キリの魔力が回復して、
午後の日差しが黄金色を帯び始めたころ、三人はパイロープを後にした。
一気に雲の上へと舞い上がり、
夕暮れまでには城にたどり着きたいと、ラグナードは飛行騎杖を急がせて──
ほどなく、
「おい、キリ……!」
いきなり後ろから抱きつかれて、ラグナードは声を上げた。
「とつぜん、なんだ? ふざけてるのか?」
整った口もとをつり上げて、薄く笑いながら少女をふり返る。
「え? わたし?」
きょとん、とキリがラグナードのほうを見て、
両足をぶらぶらと騎杖の端から投げ出して後ろ向きに座ったまま、首をかしげた。
「ん?」
眉根を寄せ、
視線を間近へと動かして、
ラグナードの微笑は凍りつく。
「お、恐ろしい……地の人の杖がこんなものだとは……」
座りこんで彼にしがみついていたのは、白銀の髪の少年だった。
「おいッ」
思わずラグナードはさけんで、ジークフリートをけりつけた。
「気色悪い! はなせ!」
少女がたわむれてきたのかと思ったときには悪い気がしなかったが、
背後から男に抱きつかれて喜ぶ趣味は、彼にはない。
「はなれろ!」
げしげしとけりつけながら少年を引き離そうと試みるが、ジークフリートはひしっとラグナードに抱きついて、彼の体に回した両腕の力をますます強くする。
「なんのつもりだ! きさま、そっちのケでもあるのか!」
「やめろ、死ぬ……! 落ちる……!」
相変わらずの無表情のまま、
顔面蒼白、
涙目になって、
ジークフリートはかたかたと震えていた。
キリが目を丸くして、
ラグナードは頬を引きつらせた。
「高所恐怖症」という言葉が脳裏にうかび──
「天の人なのに、高いところが怖いの!?」
「貴様らドラゴンは、いつも空を飛んでいるだろう!」
二人が口々に言って、
「今は翼がない!!」
少年の姿の天の人は、力いっぱいそう主張した。
「生まれてこのかた、我は背に翼がない姿になったのは初めてだ……うう、怖い……かようなか弱き肉体でここから落ちたら……」
天の人はおっかなびっくり、王室仕様の高価な飛行騎杖の透明な床からはるか真下の景色をのぞきこみ──
「……死ぬ!」
たちまち、ぶるぶるとふるえてラグナードをしっかり抱きしめた。
「死ぬだろう、コレは……! 恐ろしい……」
「おいッ!」
ラグナードがどなった。