キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「だからと言って、俺に抱きつくな!」

「な、なんと非情な……」

「パイロープの民を殺したきさまが言うなッ」

キリが「にゃははー」とかわいい声で笑った。

「こわかったら、わたしにしがみついててもいいよ」

「本当か、キリ」

ジークフリートがそろそろとラグナードを解放して、キリのほうへと手をのばし、

「……だめだ!」

ラグナードは速攻で止めた。


自分の背後でキリと少年が抱き合っているという図は──


「俺が許さん。これは命令だ」


──彼自身が男に抱きつかれることよりも、断固として受け入れられなかった。


「えー?」

キリが「なんで?」とつつしみのカケラもない発言をして首をかしげ、

「そんな……我はいったいどうすれば……」

これまた性別の自覚がまるでない非常識さで、天の人が途方に暮れた声を出した。


「そんなに怖いなら、手すりにでもつかまっていればいいだろう!」

ラグナードがどなりつけ、

ジークフリートは手すりをつかんで、「こころもとない」と泣きそうな声でつぶやいて、


「みゃっ?」

キリが変な悲鳴を発した。


「なんだ? どうした?」

ふたたび操縦のために前方を向いていたラグナードは、肩ごしに背後をふり向いて、


「羽がはえた」

キリがジークフリートを指さして言った。


ラグナードは絶句した。


真っ白な鳥のような翼が、銀髪の少年の背中からつき出ていた。


「はー、落ち着く……」

ようやくひとごこちついた様子で、羽をはやしたジークフリートが息をはいた。

「ふわふわー」

ジークフリートの後ろから、キリが白い羽毛にほおずりした。


「な、なんだ、その羽は……!?」

ラグナードが問うと、ジークフリートは翼をわさわさと動かして、

「魔法で部分的に肉体を変化させた」と、答えた。

「な──」

「これで落ちても死なずにすむ」

はー、とジークフリートはもう一度安堵の息をつき、

あぜんとしながらラグナードは前方に視線をもどした。


ドラゴンにとっては、背中に翼がない状態というのはこれほど不安なものなのか──

もともと背中に翼がないラグナードには、さっぱり理解できなかった。


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