キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「しかし、これほどの速さで飛びながら、風も感じず、このように静止したままのような状態とは……」

翼を生やしたおかげで落ち着きをとりもどし、余裕ができたジークフリートは、興味深そうに周囲を見回した。

「ううむ、周囲の風景は動いていくのに……なんとも奇妙な……」

とうなって、


「きみょ……うう……」


ジークフリートは何やら低くうめきつつ、ラグナードのマントをつかんだ。


「今度はなんだ!?」


イライラとラグナードが振り向いた。


「マントを引っぱるな!」

「気持ち悪い……」

「──なんだと!?」


翼の生えた少年は、青い顔でうずくまっていた。


「あれ、酔っちゃったのかな?」

ふかふかの白い翼をいじくっていたキリが、ジークフリートの顔をのぞきこんだ。

「うぷ……」

ジークフリートが、ラグナードのマントで口もとを押さえた。

「冗談じゃないぞ! マントをはなせ!」

「うっ……おえ……」

「キリ! そいつを何とかしろッ!!」

ラグナードは、飛行騎杖の前方とジークフリートに交互に目をやりながらわめいた。

高所恐怖症の次は乗り物酔いかと毒づく。

どういうドラゴンなんだ!


「だいじょうぶ? 吐くならこっち」

キリがジークフリートに後を向かせて、羽の生えた背中をさすって介抱する。

「後ろに向かって吐いてね」

「吐くな!」

ラグナードはあわててそう言ったが、

「おえ、おえええ……」

後ろ向きになった少年からは不穏な音が聞こえてきた。

ラグナードの位置からは、白い翼と背中しか見えない。

「吐いたのか!? 俺の杖の上で吐いたのかッ」

「へいき、へいき。騎杖の外に吐いてるから……」

言いかけたキリが言葉をとぎれさせて、

「はにゃ?」

と、目を見開いた。


「どうした! 次は何だ!?」

ラグナードは悲鳴に近い声でどなった。


「なんかキラキラしたものがいっぱい出た」

「なにが出ただと!?」

「なんだろコレ? 宝石の砂?」


キリは目を瞬いた。


「天の人って何食べてるの?」

「うおえ、おえええええ……」

「その羽人間を突き落とせ!」



にぎやかな彼ら三人を乗せて、



飛行騎杖は王都アルマンディンを目指す──。


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