キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
美しい瞳は、あわれむようにキリを見た。


「魔法使いとは、すべて────な者だからだ」


キリは彼女を抱いてくれる腕に、ぎゅっとしがみついた。


「もしもわたしが、セイを生き返らせてって言っていたら、セイはもどってきた?
あなたはセイを生き返らせてくれた?」


「そうだな。もしもおまえが口にしたのがその望みであったならば」



白い口もとが、残酷にほほえんで、



「おまえとおまえの望みは余の心を動かさなかった。

余はいじわるをしていたであろうよ」



どこまでも優しい答えを返して、その未来の可能性を完全に否定した。



「おまえは運がよかったのだ。とてもな」

ふふふ、と来訪者は笑った。

キリはその腕に抱かれたまま、じっとセイを見つめた。

「セイはね、わたしに優しくしてくれたの」

「そうか」

「セイだけが、わたしのことを大事にしてくれたの」

「そうか」

「でも、セイはもう、死んじゃった……」


森の木々の隙間から見える空が明るくなっていた。


「セイは、偉大な魔法使いになりたいって言ってたのに……生きてたら、きっとなれたのに……」

「そうか──」


少年のほおをぬらした涙を指でふいて、来訪者はしばらく小さな骸(むくろ)に視線を注いでいたが、やがてキリを床に降ろして立ち上がった。


「名前を聞いておこうか」

と、大ごもりの霧が残していった客人はキリに言った。


「キリ」

死んでしまった少年がくれた名前を、キリは名乗った。


「余は、ロキだ」


「ロキ……」


窓から朝日が差しこんで、血塗られた夜が明けた。

暗い家の中を、金色の光が満たした。


「キリ、どうしておまえとこの子供は、偉大な魔法使いになりたいと思ったのだ?」

ロキはキリにそうたずねて、


「だってね、」


キリは朝日の中で、
かつて少年がキリに語った内容を、ロキに説明した。



「だって、偉大な魔法使いになったら──……」



ロキは驚いたように目を大きくして、



ほほえんだ。



「キリよ、この世界のどこにももう、おまえを愛する者がいないのならば」


明るい朝の陽ざしの中で、残酷で優しい霧の魔王はキリに手をさしのべた。


「これからは余が、おまえに愛情を与えよう」


それは、とてつもない悲劇であったが──


「これからは余が、おまえのその無垢なる魂を愛そう」


キリは、その悪魔の手をとった。

握りしめた手は、温かかった。

それが、
暗い暗い夜を抜けてたどり着いた、彼女のたった一つの朝だった。



そうして、十年──

──キリはロキに育てられた。



霧の中から現れた魔王と呼ばれる「何か」に導かれて、彼女は育ったのだ──。











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