キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
空中宮殿カーバンクルス
王都アルマンディンは、周囲を巨大な城壁に囲まれた城郭都市だ。
都市のまわりには二十メトルム近い高さの壁がそびえ立っている。
「めずらしいか?」
と、町の広場に立って壁を見上げるキリに、ラグナードが言った。
「うん。第二大陸ではどこの国も、こんな高い壁の中に町を作るの?」
これほどの高さの壁に覆われた街を見るのは、キリにとっては初めてのことだった。
ゴンドワナ大陸では、町が壁の中に作られること自体がめずらしく、
城壁を備えた町があっても、せいぜい壁の高さはこの半分もあるかないかである。
「王都は大抵似たようなものだな」
「やっぱり、戦争してるから?」
「そういうことだ」
壁の上はすべて鋭い傾斜を持つ屋根で覆われ、不均等な間隔で円柱形の側塔が立っている。
敵襲に備えてか、
あるいは霧の発生を知らせるためか、鐘楼が備えつけられているのが見えた。
「我が国がこのアルマンディンまで敵の侵攻を許したことは、ほとんどないがな」
そう語る血の大陸の大国の王子は、どこか得意げだ。
飛行騎杖でまっすぐに城へと向かおうとするラグナードに、
城に行く前に一度町に降りたいと熱心に頼みこんだのはジークフリートだった。
「わずかな時間でかまわぬから、地の人を観察させてくれ。
このままでは、我は地の人をうまく演じる自身がない」
これには、ラグナードとキリは思わず顔を見合わせた。
服の素材すらも知らないジークフリートにとっては、確かに切実な願いであると思われた。
ラグナードが特に嫌な顔もせずに、すんなりとジークフリートの頼みを聞き入れて騎杖を都の広場に降ろしたので、キリは意外な気がした。
なぜなのか、
アルマンディンに来るまでは早く城に着きたがっている様子だったラグナードは、
空に浮かぶ黒い城を目前にしたとたん、
急に城にもどることに対して気乗りがしなくなったようだった。
今は、
すぐにもどると言って人間観察に出かけた天の人を、二人は広場に残って待っている。
小動物のようなしぐさで興味津々に王都の町並みを見回しているキリをながめ、ラグナードは軽く苦笑して、
「おまえは、けっこう苦労したんだな」
パイロープで聞いたキリの過去を思いうかべながら、そっと口にした。
「そんなつらい目にあっていたとは、思いもしなかった」
いたわるように優しい口調でつむがれた言葉を聞いて、キリはきょとんと首をかしげた。
「まあ、シムノンのクソジジイは嫌なやつだったけどさ」
キリは、西日に輝く美しい都を見回して、
「べつに、ふつうだよ」
そっけなく言った。
「わたしよりつらい思いをしてる子供は、どこにでもいっぱいいるよ」
都市のまわりには二十メトルム近い高さの壁がそびえ立っている。
「めずらしいか?」
と、町の広場に立って壁を見上げるキリに、ラグナードが言った。
「うん。第二大陸ではどこの国も、こんな高い壁の中に町を作るの?」
これほどの高さの壁に覆われた街を見るのは、キリにとっては初めてのことだった。
ゴンドワナ大陸では、町が壁の中に作られること自体がめずらしく、
城壁を備えた町があっても、せいぜい壁の高さはこの半分もあるかないかである。
「王都は大抵似たようなものだな」
「やっぱり、戦争してるから?」
「そういうことだ」
壁の上はすべて鋭い傾斜を持つ屋根で覆われ、不均等な間隔で円柱形の側塔が立っている。
敵襲に備えてか、
あるいは霧の発生を知らせるためか、鐘楼が備えつけられているのが見えた。
「我が国がこのアルマンディンまで敵の侵攻を許したことは、ほとんどないがな」
そう語る血の大陸の大国の王子は、どこか得意げだ。
飛行騎杖でまっすぐに城へと向かおうとするラグナードに、
城に行く前に一度町に降りたいと熱心に頼みこんだのはジークフリートだった。
「わずかな時間でかまわぬから、地の人を観察させてくれ。
このままでは、我は地の人をうまく演じる自身がない」
これには、ラグナードとキリは思わず顔を見合わせた。
服の素材すらも知らないジークフリートにとっては、確かに切実な願いであると思われた。
ラグナードが特に嫌な顔もせずに、すんなりとジークフリートの頼みを聞き入れて騎杖を都の広場に降ろしたので、キリは意外な気がした。
なぜなのか、
アルマンディンに来るまでは早く城に着きたがっている様子だったラグナードは、
空に浮かぶ黒い城を目前にしたとたん、
急に城にもどることに対して気乗りがしなくなったようだった。
今は、
すぐにもどると言って人間観察に出かけた天の人を、二人は広場に残って待っている。
小動物のようなしぐさで興味津々に王都の町並みを見回しているキリをながめ、ラグナードは軽く苦笑して、
「おまえは、けっこう苦労したんだな」
パイロープで聞いたキリの過去を思いうかべながら、そっと口にした。
「そんなつらい目にあっていたとは、思いもしなかった」
いたわるように優しい口調でつむがれた言葉を聞いて、キリはきょとんと首をかしげた。
「まあ、シムノンのクソジジイは嫌なやつだったけどさ」
キリは、西日に輝く美しい都を見回して、
「べつに、ふつうだよ」
そっけなく言った。
「わたしよりつらい思いをしてる子供は、どこにでもいっぱいいるよ」