キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
少なくともキリにはシムノンが残していったあの森の奥の家があり、
そして彼女はロキと出会えた。
「わたしは、運がよかったんだよ」
出会った夜にロキが語ったその言葉を、
成長し、世界を知るほどにキリはかみしめてきた。
「この都にだって、貧しい人はたくさんいるでしょ」
キリは初めて目にする大きな都をながめながら言った。
第五大陸でも、キリは貧困で捨てられた子供や、帰る家のない子供を多く見てきた。
この第二大陸ならば、戦乱で親を失った子供も多いだろうと思った。
「まあな」
ラグナードも半年ぶりのアルマンディンに目を向ける。
赤い宝石とも謳われる都は美しい。
広場の南に見える大通りは舗装され、両脇には一階に店を構えた二階建て以上の建物が整然と並んで、人々や馬車がにぎやかに行き交っている。
北側には露天が軒を連ねる大きな市場が見え、夕刻の買い物をする人々で活気に満ちていた。
しかし
石組みのアーケードをくぐって大通りからそれ、複雑に入り組んだ路地の奥へと足を進めると、そこには多くのほかの国と同じように、きれいな都の影の部分もまた横たわっている。
くり返してきた他国との戦の歴史は、
キリが想像したとおりに親をなくした浮浪児や、戦乱で土地を失った者たちを生み続けた。
そして、
ほかに行く当てのないそういう者たちはこの王都へと流れてくるのだ。
ラグナードが知る貴族の令嬢たちは決して見ようとしないが、この王都の裏側にも苦しみあえぐ人間たちがいる。
キリの横顔を見つめ、彼は口もとにふっと微笑をうかべる。
「たしかに、他の女とは少し違うな」
じっと少女をとらえる紫色の瞳には、獲物に狙いをさだめる肉食の獣のような光がともっていたが、キリはまったく気がつかない。
「なにが?」
と、彼女は相変わらずとぼけた調子でのんびり首をかしげて、
「王子!」
広場に声が響きわたった。
「ラグナード王子!」
見れば、町ゆく人々が足を止め、広場にいるラグナードに視線を送っていた。
「おお、王子」
「留学からおもどりに」
そんな言葉を口々に言いながら、たちまち群衆はラグナードとキリを囲んだ。
誰もが好意のにじんだ笑顔を、白銀の鎧に身を包んだ青年に向けている。
魔法で地方言語の意味を拾い上げ──、
「ラグナードって──」
キリは目を丸くした。
「本当に王子様だったの……!?」
「まだ信じてなかったのかッ」
ラグナードが美しい顔を歪めてどなった。
「今まで俺を何だと思ってたんだ!」
「あはは。いや、信じてなかったワケじゃないけど、半信半疑っていうか……」
キリがへらへらと笑って、そんなにも信用されていなかったのかとガックリ肩を落としながらラグナードはため息をついた。
そして彼女はロキと出会えた。
「わたしは、運がよかったんだよ」
出会った夜にロキが語ったその言葉を、
成長し、世界を知るほどにキリはかみしめてきた。
「この都にだって、貧しい人はたくさんいるでしょ」
キリは初めて目にする大きな都をながめながら言った。
第五大陸でも、キリは貧困で捨てられた子供や、帰る家のない子供を多く見てきた。
この第二大陸ならば、戦乱で親を失った子供も多いだろうと思った。
「まあな」
ラグナードも半年ぶりのアルマンディンに目を向ける。
赤い宝石とも謳われる都は美しい。
広場の南に見える大通りは舗装され、両脇には一階に店を構えた二階建て以上の建物が整然と並んで、人々や馬車がにぎやかに行き交っている。
北側には露天が軒を連ねる大きな市場が見え、夕刻の買い物をする人々で活気に満ちていた。
しかし
石組みのアーケードをくぐって大通りからそれ、複雑に入り組んだ路地の奥へと足を進めると、そこには多くのほかの国と同じように、きれいな都の影の部分もまた横たわっている。
くり返してきた他国との戦の歴史は、
キリが想像したとおりに親をなくした浮浪児や、戦乱で土地を失った者たちを生み続けた。
そして、
ほかに行く当てのないそういう者たちはこの王都へと流れてくるのだ。
ラグナードが知る貴族の令嬢たちは決して見ようとしないが、この王都の裏側にも苦しみあえぐ人間たちがいる。
キリの横顔を見つめ、彼は口もとにふっと微笑をうかべる。
「たしかに、他の女とは少し違うな」
じっと少女をとらえる紫色の瞳には、獲物に狙いをさだめる肉食の獣のような光がともっていたが、キリはまったく気がつかない。
「なにが?」
と、彼女は相変わらずとぼけた調子でのんびり首をかしげて、
「王子!」
広場に声が響きわたった。
「ラグナード王子!」
見れば、町ゆく人々が足を止め、広場にいるラグナードに視線を送っていた。
「おお、王子」
「留学からおもどりに」
そんな言葉を口々に言いながら、たちまち群衆はラグナードとキリを囲んだ。
誰もが好意のにじんだ笑顔を、白銀の鎧に身を包んだ青年に向けている。
魔法で地方言語の意味を拾い上げ──、
「ラグナードって──」
キリは目を丸くした。
「本当に王子様だったの……!?」
「まだ信じてなかったのかッ」
ラグナードが美しい顔を歪めてどなった。
「今まで俺を何だと思ってたんだ!」
「あはは。いや、信じてなかったワケじゃないけど、半信半疑っていうか……」
キリがへらへらと笑って、そんなにも信用されていなかったのかとガックリ肩を落としながらラグナードはため息をついた。