キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)


棍棒を振り上げたままの少女と、その棍棒で少女が叩いていたとおぼしき物体。


それら全てが──

部屋の中の光景全てが──




──もうもうたる粉塵にかすんでいた。




外の風にあおられ、騎士の背中でバタンと音を立てて扉が閉まった。

満足した様子でうなずき、再び少女が手にした棍棒を打ち下ろして──


「やめろ!」

青年は制止の声を発したが、間に合わなかった。


どん、という鈍い音。

「やめ……っげほっ!」

激しくホコリが巻きあがる。

「貴様、こんな締め切った部屋の中で──……げほごほ!」

むせかえる青年の前で、再び少女が棍棒を打ち下ろす。

「うぐっ……ごほがは! ──やめんか!」

もうもうと舞う粉塵に涙目になりながら、

「な……何のつもりだ、これは!?」

少女の信じがたい行為を騎士は問いただした。

「何って……」

キョトン、と少女が首をかしげて、


「ベッドのお掃除」


密閉された部屋の中で、本棚にたてかけたベッドマットをバンバン叩きながら、薔薇の花弁のような唇がそう言った。
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