キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「すげー! 本物の羽だ」などと言いながら、人垣の中にいた子供たちがジークフリートを囲んだ。


「王子、お知り合いですか?」と、大人たちがおそるおそるたずねる。


ラグナードは、初っぱなからこの天の人の正体が暴露されかかっている状況をなんとか打破できないかと必死に頭をめぐらせ──


「この者は、ローレンシア大陸奥地の大峡谷に暮らす有翼民族の魔法使いだ」


もうどうにでもなれと、口からでまかせの苦しい言い訳をしてみた。


「有翼民族……!」

「おお、第三大陸にはそんな民が……!」


どよめく民衆。


「世界には翼の生えた人間もいるんだな」

「へええ、知らなかった」

「なんだよ、おめえ。ものを知らねえな。俺は知ってたぜ」

「あたしも知ってたよ。世の中にはいるんだよ、翼の生えた人も」


いるわけがない、とげんなりするラグナード。


「見かけない服着てるもんなあ」

「第三大陸の民族衣装なのかねえ」

「よく見ると、耳も羽なんだな」


興味津々でジークフリートをながめ回す人々の言葉に、ラグナードはあわてて白い少年の頭を見た。

流れるような長い銀髪の間からつき出した深いブルーの羽は、飾りかと思っていたら耳だったらしい。


ラグナードは早くも目の前が暗くなるのを感じた。

地の人のフリをさせるには前途多難だった。


「ほんとだ、羽だ」とキリが夕闇のような色の羽をつついて、ジークフリートがぴくぴくと耳を動かした。




ボロが出ないうちに一刻も早く衆目の前から去ることにして、ラグナードはただちにジークフリートとキリを杖に乗せて飛び立った。


「ラグナードって、都の人に人気あるんだね」

手を振る広場の人々を眼下にながめながら、キリはぼやいた。

「みんなと仲良くしゃべってて、なんだかびっくり」


自国の王子を嫌う人間もいないかもしれないが、
庶民はふつう、王族をおそれ多く近寄りがたいものと考える。

しかしこの王都アルマンディンの人々は王子を気安く囲んで、親しみをこめた言葉をかけてきた。

お高くとまったこの王子様が、そんな人々の態度を許して、しかもまんざら居心地が悪そうでもない様子だったのは、キリにとっては意外だった。


「ふん、下々の者の声を直接聞いてやるのも、国を治めるには重要だからな」

庶民の言葉を話せる王子様は、すました顔で宣った。


「うーん……エラそう」と、キリは首をひねって、やっぱり意外だと思った。
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