キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
少年の顔はまるで氷で作られた彫像のようにかたまったままで、人形が笑っているかのようだ。


不気味すぎた。



「怖い? なにがだ?」

ジークフリートが笑うのをやめた。


「ジークフリートってば、笑ってるのに笑ってないよ!」

「きさまは芝居小屋の人形か! やはり人間をなにも理解できていない!」


口々にさけぶ二人を見くらべて、天の人は首をかしげた。


「俺にはおまえらが何を言ってるのかさっぱりわからん」



キリとラグナードは顔を見合わせて、



「「顔に表情がない!」」

と、声をそろえた。



ふり返ると、
人の姿になってからずっと、ジークフリートは無表情なままだった。

「表情?」

天の人は目だけ丸くした。

「笑うときはふつうこうやるのっ」

キリが少年の白いほっぺたをつまんで、うにい、とむりやりに口角をつり上げた。

「表情って──おまえたちがよく無意味に顔を細かく動かしているアレか?」

ほっぺたをこすりながら、ジークフリートは言った。

「無意味にって……」

キリが絶句した。

「人間らしく見せるには、しゃべり方よりもよほど重要だ!」

「なに!? そいつは困ったな……」

ラグナードの言葉を聞いて、ジークフリートはうなった。

「なにをどう困るんだ?」

「俺はどうも、おまえらの顔の区別がつかねーんだが」

「な……」

「細かな顔の動きの違いなんて見分けられねーし、そもそも顔の筋肉の動かしかたがよくわからん」

ラグナードもまた言葉を失う。

「俺たち天の魔法使い同士の顔なら、違いがよくわかるんだがな」


つまり、キリやラグナードもドラゴンの顔の違いがわからないのと同じで、天の人であるジークフリートには人型の顔の細かな表情などの区別がつかないということらしい。


「天の人って、表情とかなさそうだもんね」

ややぼう然としながらキリが言った。

ドラゴンが笑顔を作っていたら、それはそれで不気味そうだ。


「そりゃそうだよね。
生まれてからずっとドラゴンの姿だったのに、はじめて人の姿になって急に表情なんて作れるわけないよね……」




地上の人間のフリをさせるには致命的すぎだった。




「でも、ホラ、世の中には無表情な人もいるし、だいじょうぶなんじゃないかな」

「なんだ、そうなのかキリ。それは良かった」

「…………」

ふたたび頭痛がしてきて、ラグナードはこめかみを押さえた。




やがて、

都から数キロ進んだ地点で、豊かな森のまん中には夕日を受けてキラキラと金に輝く湖が現れた。


「わあ」

頭上を見上げてキリが感嘆の声を上げる。


「すごい……!」

< 185 / 263 >

この作品をシェア

pagetop