キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「もういい!」

ラグナードは不機嫌にはき捨てて歩き出し、

目の前に広がった王宮の庭園と、庭園を囲むように立ち並ぶ建物を見回してぽかんと立ちつくしているキリとジークフリートをふり返った。


「ついてこい」


城門のすぐそばに建てられた兵舎や、きれいに手入れされた木々をながめたまま、
二人がのろのろとラグナードの後を追い始める。


「あ、あの、殿下。この者たちは……?」

あわてて隊長が、キリとジークフリートに──と言うよりもジークフリートに目をやった。


さらに正確に言うならば、

ジークフリートの背中から生えている白い翼を困惑気味に凝視した。


兵士たちも皆、騎杖が城門の中に入ってきた瞬間からその一点に視線を注いでいた。


「こいつらは──」

ラグナードが懸念していたとおりの展開である。

彼は重たい息をはいて、地上の都でしたのと同じ説明をしようと口を開き──

「──わけあって連れてきた」


すべてを省略した。


「いずれわかる」

意味深にそんな言葉を言い置いて、もの言いたそうな面々の顔を尻目にラグナードはその場を後にする。


「はあ、そうですか……」

背後でそんなまぬけな声を出して、隊長が黙った。


「ちゃんと説明しなくていいの?」

キリが、立ちつくしている兵士たちを肩ごしにチラとふり返った。


「わけありだと伝えておけば十分だ」

と、庭園の中をまっすぐにのびる白い石畳の道を歩きながら、ラグナードはそっけなく言った。


「近衛騎士団長のグロッシュラー公が警備にあたっている時なら、めんどうなことになっていたが──

たかが宮闕(きゅうけつ)守護兵の連隊長には、王族の『わけ』に立ち入って詮索するようなマネは許されていない」


キリはふうん、と言って、

配置にもどるよう兵士に指示しているヒゲの隊長から、周囲の建物に視線を移した。


お城と聞いて、キリは大きな一つの建物だけを想像していたが、

四方に建つ外廓塔を結ぶ内壁の内側には、いくつもの美しい建物が並んでいた。

一階の部分や空中に渡された廊下で、建物同士が結ばれているものもある。


中心に開けたほぼ正方形の中庭を横切って、
ラグナードがまっすぐに向かっているのは、

その中でも最も大きく、
最も美しい装飾がほどこされた宮殿だ。


「ラグナードって、こんなところで暮らしてたんだ……」


慣れた様子で歩みを進める青年の後ろ姿と、荘厳なカーバンクルス城の中とを見くらべて、キリはため息をこぼした。


「浮遊岩石の上にこのような城を作るとは……」


ジークフリートも物珍しそうに視線をめぐらせて、背中の翼をわきわきと動かした。
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