キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
階段の両側には、装飾のほどこされた手すりのテラスがのびている。
正面の入り口の前にはやはり槍で武装した衛兵が二人立っていたが、ラグナードの姿を認めると一人がさっと道をあけ、もう一人が扉を開けた。
ラグナードが扉から中に入る。
続けてキリとジークフリートが入ろうとしたところで、
衛兵の槍が二人の目の前で交差し、キリはぎょっとして立ち止まった。
「いい。こいつらも通せ」
と、ラグナードが中からふり向きもせずに言った。
「は!」
衛兵がきびきびした声で短く言って、
「失礼いたしました」
とキリとジークフリートを中に入れた。
背後で扉が閉まり、
「ありゃいったいなんだ?」
「背中に羽が生えてたぞ、仮装か?」
外からは、想像どおりの反応をする衛兵たちの会話が聞こえた。
両側に黒い石の柱が並び立つ、吹き抜けの大広間にキリは目を奪われる。
すでに宮殿の中には明かりが灯され、目もくらむばかりに輝くシャンデリアが金の鎖でいくつもつり下がっていた。
「お帰りなさいませ、殿下」
すでに王子の帰還が伝えられていたのか、待ちかまえていた執事がラグナードに飲み物の入った杯を差し出す。
キリとジークフリートには、何もなかった。
「陛下がお呼びでございます。至急お会いになりたいと」
冷えた果実酒を一気に飲み干してのどをうるおし、
ラグナードは執事に銀の杯を押しつけて、
「ああ。身支度を調えたらすぐに行く」
そう言って、顔をしかめた。
「俺の召使いはどうした?」
と、彼は先刻と同じ問いをイライラしながら口にした。
「この俺がもどったと言うのに、どうして顔を見せない?」
「ああ、あの者は──」
絹のシャツの上から襟まわりに刺繍のある上着を着た王宮の執事は、やや言いよどんだ。
「殿下がご不在の間に辞めまして……」
「逃げたか」
ちっ、とラグナードが舌打ちした。
執事が無言でうやうやしくお辞儀した。
「またか。どいつもこいつも……これで何人目だ?」
「十八人目でございます」
思わずキリは耳を疑った。
王子付きの召使いが十八人も辞めるとは、どういう国なのだろう。
「とりあえず俺の部屋には代わりの召使いをよこせ。湯浴みの支度をさせろ」
執事が「は」と頭を垂れる。
ラグナードは広間の奥へと歩き出し、
「なにをしている。来い」
立ちつくしている二人に声をかけた。
「あの、この者たちは……」
城門の隊長と同じようなセリフを口にして、空っぽの杯を手にした執事がキリとジークフリートをジロジロとながめた。
ラグナードが、口もとをつり上げた。
「そうだな。逃げた召使いの代わりというところだ」
えっ? と、キリはラグナードの顔を見上げた。
正面の入り口の前にはやはり槍で武装した衛兵が二人立っていたが、ラグナードの姿を認めると一人がさっと道をあけ、もう一人が扉を開けた。
ラグナードが扉から中に入る。
続けてキリとジークフリートが入ろうとしたところで、
衛兵の槍が二人の目の前で交差し、キリはぎょっとして立ち止まった。
「いい。こいつらも通せ」
と、ラグナードが中からふり向きもせずに言った。
「は!」
衛兵がきびきびした声で短く言って、
「失礼いたしました」
とキリとジークフリートを中に入れた。
背後で扉が閉まり、
「ありゃいったいなんだ?」
「背中に羽が生えてたぞ、仮装か?」
外からは、想像どおりの反応をする衛兵たちの会話が聞こえた。
両側に黒い石の柱が並び立つ、吹き抜けの大広間にキリは目を奪われる。
すでに宮殿の中には明かりが灯され、目もくらむばかりに輝くシャンデリアが金の鎖でいくつもつり下がっていた。
「お帰りなさいませ、殿下」
すでに王子の帰還が伝えられていたのか、待ちかまえていた執事がラグナードに飲み物の入った杯を差し出す。
キリとジークフリートには、何もなかった。
「陛下がお呼びでございます。至急お会いになりたいと」
冷えた果実酒を一気に飲み干してのどをうるおし、
ラグナードは執事に銀の杯を押しつけて、
「ああ。身支度を調えたらすぐに行く」
そう言って、顔をしかめた。
「俺の召使いはどうした?」
と、彼は先刻と同じ問いをイライラしながら口にした。
「この俺がもどったと言うのに、どうして顔を見せない?」
「ああ、あの者は──」
絹のシャツの上から襟まわりに刺繍のある上着を着た王宮の執事は、やや言いよどんだ。
「殿下がご不在の間に辞めまして……」
「逃げたか」
ちっ、とラグナードが舌打ちした。
執事が無言でうやうやしくお辞儀した。
「またか。どいつもこいつも……これで何人目だ?」
「十八人目でございます」
思わずキリは耳を疑った。
王子付きの召使いが十八人も辞めるとは、どういう国なのだろう。
「とりあえず俺の部屋には代わりの召使いをよこせ。湯浴みの支度をさせろ」
執事が「は」と頭を垂れる。
ラグナードは広間の奥へと歩き出し、
「なにをしている。来い」
立ちつくしている二人に声をかけた。
「あの、この者たちは……」
城門の隊長と同じようなセリフを口にして、空っぽの杯を手にした執事がキリとジークフリートをジロジロとながめた。
ラグナードが、口もとをつり上げた。
「そうだな。逃げた召使いの代わりというところだ」
えっ? と、キリはラグナードの顔を見上げた。