キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「こいつらも俺の部屋に連れていく。来い」

一方的に言い放って、


ラグナードは大広間をつっきって歩いていく。


その背中に向かって頭を下げる執事の横をすり抜け、キリはあわててラグナードを追いかけた。

執事が手にした銀の杯をなぜか興味深そうにながめていたジークフリートも、後からついてきた。



「わたしは、召使いになんてならないよ?」


広間の奥から石造りの廊下へと出て、ろうそくの灯された通路を歩きながら、

キリは先を行くラグナードに向かって、口をとがらせて言った。


「杖をもらって帰るんだから」

「心配するな」


前を向いたまま、ラグナードはキリには見えない口の端で笑った。


「ほうびの杖のことは、これから陛下に俺が伝える」

「ほんと?」

「城に滞在している間、貴族でもないおまえたちは、俺付きの召使いということにしておいたほうが都合がいい」

「そうなの?」

「召使いならばいつでも俺に会えるし、俺の私室にも入れる」


紫色の瞳が、鎧の肩ごしにキリを流し見た。


「昼間でも、夜でもな」

「へえ」


キリが顔色一つ変えずに相づちを打った。

ほかの女ならば頬を赤らめるようなセリフにも、相も変わらずの無反応なキリに、ラグナードは不機嫌に頭を振る。


「ジークフリート、きさまは実際にしばらく俺の召使いになってもらうぞ」

「なに?」


めずらしそうに壁のろうそくに鼻を近づけて匂いをかいでいたジークフリートは、急いでキリとラグナードに追いついた。


「天の人たるこの俺に、地の人ごときの召使いになれってのか!?」

「誇りを取り戻すまでは俺に仕えると誓っただろうが!」

「召使いになるとは言ってねーよ」

「……ならば、俺の従者になってもらう。護衛を兼ねてな」


召使いも従者も同じで、言い方を変えてみただけなのだが──


「従者か。よし、心得た」


ジークフリートがあっさりと承知したのでラグナードはこけそうになった。


むろん、

魔法使いにとっては、召使いというのが従者ではなく、
手足となって働く道具である「使い魔」や「奴隷」と同じ意味を持つということをラグナードは知らなかった。
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