キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
男の部屋だからか、内装には思ったよりも飾り気はないが、

それでも戸棚や衣装のクローゼットに至るまで、一見して高価なしつらえであると知れる調度がそろっている。


「ここ、一人で使ってるの?」

「ああ」


うなずいて、ラグナードは鎧のマントをはずしてテーブルの椅子にかけた。


半年も主が不在だった部屋は、

まるで毎日そこで人が暮らしていたかのように、すみずみまで手入れされていた。


ぽかんと立ったままのキリの後ろから入ってきたジークフリートが、鼻をすんすんと鳴らして部屋の空気をかぎ、

「なにかいるのか?」と首をかしげた。


「えっ?」

キリが部屋の中をもう一度見回すのと同時に、


ベッドの影から、何か大きなものがむっくりと起き上がった。


「ハティ」と、ラグナードが呼ぶ。

しっぽをふりながら飛び出して、ラグナードにすり寄った大きな動物を見て、キリは目を輝かせた。


「なになに? それ、オオカミ!?」


「こんな大きな狼がいるか。俺の犬だ」


ラグナードの頭とほぼ同じ位置にある頭を低く下げて、おとなしくなでられているのは、

狼そっくりの外見をした馬よりも巨大な犬だった。


「俺を覚えていたか。偉いぞ」


ぴんと立った大きな耳と、長く垂れた太いしっぽ。

ふかふかした毛皮は毛並みがよく、背中側が銀色でおなかの側が白い。


「狩猟犬のダイアルプスだ」と、銀の毛をなでてやりながらラグナードが説明した。


「わー、おっきい。乗れそう」

「ほう? こいつが犬というものか」

「ふつうはもっと小さくて、こんくらいの大きさなんだけどね」


キリが両手でふつうの犬の大きさをジークフリートに示して、巨大な犬をながめた。


「王様や貴族様は、狼も逃げてくようなすごく大きな犬も飼ってるって聞いたけど、これがダイアルプスかあ」


キリは瞳をきらきらさせて、

「なでてもいい?」

と、言うなり犬に手を伸ばした。

「俺もさわってみたいぞ」

ジークフリートも興味津々で巨大な犬に近づく。


ぐるる、と耳を伏せて犬が低くうなった。
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