キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
ご令嬢などと言われて、キリはたちまち気分をよくした。
「んふふー、そう見える?」
彼女はピンクの長い髪の毛をゆらして、くるりとその場で回ってみせる。
「違う」と、ラグナードは不機嫌に否定した。
「これのどこか貴族だ? どう見ても高貴さとは無縁の小娘だろう」
冷たい言いように「ぶー」とキリがふてくされた。
「しかし陛下のご命令ですので」
そう言われてしまえば、ラグナードも二人を連れて行くしかなかった。
「貴族語は通じるようですし、問題ございませんでしょう」
執事はそう言って、「そちらのお連れ様は……」とジークフリートに目を向けた。
さすがに長年王宮に仕えてきた執事だけあって、
外の兵士たちとは違い、たとえ背中に羽が生えていても、王子の連れてきた人間にジロジロと好奇の視線を注ぐような無礼はしなかった。
「言葉か? 言葉なら、俺も問題ない」
ジークフリートがリンガー・ノブリスで言って、執事は静かにうなずいた。
「では、ご案内いたします。こちらへ」
一定の間隔でろうそくが灯された廊下は、ろうそくとろうそくの間にだけ真っ暗な闇が落ちている。
手にしたろうそくを掲げ道を照らして先を歩く執事の後について進みながら、
キリは隣のラグナードに、
「ラグナードのお父さんってどんな人?」
と、執事に聞こえないように小さくささやいた。
「俺の父上か?」
ラグナードは、なぜか驚いたような声でたずね返した。
「父上は──俺が幼いころに戦で死んだ。
どんな人だったのか、ほとんど覚えていない」
「えっ?」
キリは首をかしげた。
「今から会う王様って、ラグナードのお父さんじゃないの?」
「ああ──」
ラグナードはようやく、
キリがどういう勘違いをして、とつぜん父親のことをきいてきたのかを理解した。
「俺は、現国王であるイルムガンドル十七世の弟だ」
「弟? 親子じゃなくて兄弟?」
王子というからには、王様の息子だとばかり思っていたキリはびっくりした。
「ひょっとして、ガルナティスの王様ってまだ若いの?」
「陛下は今年で三十四だ」
兄弟にしてはかなり年上で、ラグナードとは年が十歳以上も離れていることになるが、
それでもキリの想像とは違って、ずいぶん若い王様だった。
彼女が思い描いていたのは、物語に出てくるような白いヒゲをたくわえた貫禄のある初老の王様だった。
「だが、陛下は未だご結婚されていないし、子供がいない。
だから弟である俺が、二十歳になるこの新年に、陛下の養子になり皇太子として立つことが決まっている」
「ふうん、兄弟なのに養子になるのかあ」
跡取りのいない王家ではどの国でもよくあることだったが、キリにはとても奇妙なことのように思えた。
「んふふー、そう見える?」
彼女はピンクの長い髪の毛をゆらして、くるりとその場で回ってみせる。
「違う」と、ラグナードは不機嫌に否定した。
「これのどこか貴族だ? どう見ても高貴さとは無縁の小娘だろう」
冷たい言いように「ぶー」とキリがふてくされた。
「しかし陛下のご命令ですので」
そう言われてしまえば、ラグナードも二人を連れて行くしかなかった。
「貴族語は通じるようですし、問題ございませんでしょう」
執事はそう言って、「そちらのお連れ様は……」とジークフリートに目を向けた。
さすがに長年王宮に仕えてきた執事だけあって、
外の兵士たちとは違い、たとえ背中に羽が生えていても、王子の連れてきた人間にジロジロと好奇の視線を注ぐような無礼はしなかった。
「言葉か? 言葉なら、俺も問題ない」
ジークフリートがリンガー・ノブリスで言って、執事は静かにうなずいた。
「では、ご案内いたします。こちらへ」
一定の間隔でろうそくが灯された廊下は、ろうそくとろうそくの間にだけ真っ暗な闇が落ちている。
手にしたろうそくを掲げ道を照らして先を歩く執事の後について進みながら、
キリは隣のラグナードに、
「ラグナードのお父さんってどんな人?」
と、執事に聞こえないように小さくささやいた。
「俺の父上か?」
ラグナードは、なぜか驚いたような声でたずね返した。
「父上は──俺が幼いころに戦で死んだ。
どんな人だったのか、ほとんど覚えていない」
「えっ?」
キリは首をかしげた。
「今から会う王様って、ラグナードのお父さんじゃないの?」
「ああ──」
ラグナードはようやく、
キリがどういう勘違いをして、とつぜん父親のことをきいてきたのかを理解した。
「俺は、現国王であるイルムガンドル十七世の弟だ」
「弟? 親子じゃなくて兄弟?」
王子というからには、王様の息子だとばかり思っていたキリはびっくりした。
「ひょっとして、ガルナティスの王様ってまだ若いの?」
「陛下は今年で三十四だ」
兄弟にしてはかなり年上で、ラグナードとは年が十歳以上も離れていることになるが、
それでもキリの想像とは違って、ずいぶん若い王様だった。
彼女が思い描いていたのは、物語に出てくるような白いヒゲをたくわえた貫禄のある初老の王様だった。
「だが、陛下は未だご結婚されていないし、子供がいない。
だから弟である俺が、二十歳になるこの新年に、陛下の養子になり皇太子として立つことが決まっている」
「ふうん、兄弟なのに養子になるのかあ」
跡取りのいない王家ではどの国でもよくあることだったが、キリにはとても奇妙なことのように思えた。