キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
赤い髪の一族
来たときと同じように、渡り廊下を渡って宮廷の建物へと移動する。
外はすっかり夕闇に包まれ、中庭にいくつも焚かれた松明が赤々とあたりを照らしていた。
「広間ではないのか?」
玉座のある謁見の間には向かわずに階段を上がり始めた執事に、ラグナードが声をかけて、
「陛下は執務室でお待ちです」
と執事は答えた。
「イルムガンドル十七世ってどんな王様?」
パラスの階段を上がりながら、キリは改めてたずね直した。
「たしか、ラグナードの剣の先生でもあるって言ってたよね。
やっぱり武術の達人?」
「そうだな……」
ラグナードの脳裏に、
鋼のような厳しい瞳をした堂々たる王の姿がうかぶ。
「勇猛果敢、質実剛健、
正義を重んじ、誰にも平等で、
国を治める王として申し分ないと誰もが認める人だ」
「へええ──」
キリは思わずラグナードの顔を見上げた。
この偉ぶった王子様の口から、素直に他人をほめる言葉などというものが飛び出すのは初めてだ。
階段を上りきり、廊下に出る。
「ラグナードがそこまで言うなんて、きっと本当にすごい王様なんだね」
「まあな」
ラグナードは、どこか皮肉めいた苦笑をもらした。
「一国の王としては、完璧すぎる性格の方だ」
イルムガンドルならば必ず、誠実にキリに褒美の杖を渡して家へと帰してやろうとするだろうと思われた。
無邪気に杖がもらえると信じているキリの顔を横目でチラと見下ろして、
うまくやらなくてはな──
ラグナードは声に出さずつぶやく。
いくつも並んだ扉の前を過ぎ、
ラグナードの部屋の扉よりもさらに美しい金の細工で飾られた扉の前で、執事は足を止めた。
誰かいるのか、中からは何やら話し声が聞こえている。
執事がドアをノックしようとすると、
先にドアが開いて、中にいた人間が廊下へと出てきた。
黒みを帯びた深い紅の髪が目を引く。
「あらあ、ラグじゃないの!」
色っぽいハスキーな声がかけられたとたん、ラグナードがあからさまに嫌な顔になった。
ウェーブした長い長い髪が、腰まで流れ落ちて揺れている。
王の執務室から出てきてラグナードにほほえみかけたのは、薔薇の花を連想させる妙齢の美女だった。
すらりとした長身を覆うのはパーティー用のドレスではなく、金糸の縫い取りがある公務用の黒い礼服ではあるが、
なまめかしい白い肩が露出したデザインだ。
ふわりと肩のまわりに巻いた布とスカアトの赤が、髪の色と相まってあでやかな空気をかもし出している。
執事が深く頭を垂れ、
「これはこれは、スペッサルティン宰相閣下」
と、ラグナードが引きつった笑みをむりやりに作った。
外はすっかり夕闇に包まれ、中庭にいくつも焚かれた松明が赤々とあたりを照らしていた。
「広間ではないのか?」
玉座のある謁見の間には向かわずに階段を上がり始めた執事に、ラグナードが声をかけて、
「陛下は執務室でお待ちです」
と執事は答えた。
「イルムガンドル十七世ってどんな王様?」
パラスの階段を上がりながら、キリは改めてたずね直した。
「たしか、ラグナードの剣の先生でもあるって言ってたよね。
やっぱり武術の達人?」
「そうだな……」
ラグナードの脳裏に、
鋼のような厳しい瞳をした堂々たる王の姿がうかぶ。
「勇猛果敢、質実剛健、
正義を重んじ、誰にも平等で、
国を治める王として申し分ないと誰もが認める人だ」
「へええ──」
キリは思わずラグナードの顔を見上げた。
この偉ぶった王子様の口から、素直に他人をほめる言葉などというものが飛び出すのは初めてだ。
階段を上りきり、廊下に出る。
「ラグナードがそこまで言うなんて、きっと本当にすごい王様なんだね」
「まあな」
ラグナードは、どこか皮肉めいた苦笑をもらした。
「一国の王としては、完璧すぎる性格の方だ」
イルムガンドルならば必ず、誠実にキリに褒美の杖を渡して家へと帰してやろうとするだろうと思われた。
無邪気に杖がもらえると信じているキリの顔を横目でチラと見下ろして、
うまくやらなくてはな──
ラグナードは声に出さずつぶやく。
いくつも並んだ扉の前を過ぎ、
ラグナードの部屋の扉よりもさらに美しい金の細工で飾られた扉の前で、執事は足を止めた。
誰かいるのか、中からは何やら話し声が聞こえている。
執事がドアをノックしようとすると、
先にドアが開いて、中にいた人間が廊下へと出てきた。
黒みを帯びた深い紅の髪が目を引く。
「あらあ、ラグじゃないの!」
色っぽいハスキーな声がかけられたとたん、ラグナードがあからさまに嫌な顔になった。
ウェーブした長い長い髪が、腰まで流れ落ちて揺れている。
王の執務室から出てきてラグナードにほほえみかけたのは、薔薇の花を連想させる妙齢の美女だった。
すらりとした長身を覆うのはパーティー用のドレスではなく、金糸の縫い取りがある公務用の黒い礼服ではあるが、
なまめかしい白い肩が露出したデザインだ。
ふわりと肩のまわりに巻いた布とスカアトの赤が、髪の色と相まってあでやかな空気をかもし出している。
執事が深く頭を垂れ、
「これはこれは、スペッサルティン宰相閣下」
と、ラグナードが引きつった笑みをむりやりに作った。