キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
部屋の中は執務室という響きから想像していたよりもはるかに広く、ラグナードの部屋とほぼ同じ大きさがあった。
キリは、王様に会うなどもちろん初めてである。
いったいどんな人なのだろうかと、どきどきしながら部屋の中を見回した。
執務室の中央には、どっしりした背の低いテーブルと重厚な脚のソファーが置かれ、
両側の壁はすべて書架で埋め尽くされて、
一段高くなった窓際に大きな執務机が置かれていた。
王の書記官だろうか。
机には赤い髪の女性が一人座って、
煌々と灯された燭台の明かりの下で、積み上がった羊皮紙の書類に目を通し、忙しそうに手にした羽ペンを動かして手元の羊皮紙に何かを書きこんでいた。
キリは首をかしげた。
部屋の中にはその女性だけで、王様らしき人の姿は見あたらない。
ラグナードが執務机に歩みよった。
「ただいま帰還いたしました、陛下」
とつぜん、
片膝をついてひざまずき、ラグナードが頭を垂れたので、キリはびっくり仰天した。
ふう、と机の女性が息を吐き、
羽ペンと羊皮紙を放り出して、鋼を思わせるグレイの瞳をこちらへと向けた。
左の耳の下で一まとめにした、鮮血のごとき赤い髪が肩にかかっている。
「顔を上げよ」
執務机に両ひじをつき、
組んだ手の上にあごを乗せて、
「久しぶりだな、我が弟よ」
──と、
ガルナティス王国アントラクス王朝の女王──イルムガンドル・クラウディア・アントラクスは、鋭い眼光でラグナードを見すえた。
「王様って──ラグナードのお兄さんじゃなくて、お姉さんだったの!?」
ラグナードの話しぶりから、キリはがっちりした筋骨隆々の男の王様を思い描いていた。
まさかガルナティスの現国王というのが女王だとは、考えてもみなかった。
とは言え──、
目の前の女性は、ひきしまった細身の体の美人ではあるものの、
廊下で会った宰相のように、なよっとした女っぽさとは無縁だった。
「女王」と呼ぶよりは「王」と呼ぶほうがしっくりくる。
金の肩章がある軍服に似た深紅の礼装に、深い緑のベスト。
男のような服装が違和感なく似合っている。
「この者たちは何だ?」
と、キリとジークフリートを目で示してラグナードにたずねる口調も、表情も、
身にまとう精悍な空気のすべてに、すきなく鍛え上げられた鋼鉄の印象があった。
「片方は、ずいぶんと珍しいなりをしているようだな」
なんというか、かっこいい女の人だなあ、とキリは思った。
「おい……!」と、突っ立っているキリとジークフリートをふり返って、ラグナードがムリヤリ頭を押さえて礼をとらせた。
キリは、王様に会うなどもちろん初めてである。
いったいどんな人なのだろうかと、どきどきしながら部屋の中を見回した。
執務室の中央には、どっしりした背の低いテーブルと重厚な脚のソファーが置かれ、
両側の壁はすべて書架で埋め尽くされて、
一段高くなった窓際に大きな執務机が置かれていた。
王の書記官だろうか。
机には赤い髪の女性が一人座って、
煌々と灯された燭台の明かりの下で、積み上がった羊皮紙の書類に目を通し、忙しそうに手にした羽ペンを動かして手元の羊皮紙に何かを書きこんでいた。
キリは首をかしげた。
部屋の中にはその女性だけで、王様らしき人の姿は見あたらない。
ラグナードが執務机に歩みよった。
「ただいま帰還いたしました、陛下」
とつぜん、
片膝をついてひざまずき、ラグナードが頭を垂れたので、キリはびっくり仰天した。
ふう、と机の女性が息を吐き、
羽ペンと羊皮紙を放り出して、鋼を思わせるグレイの瞳をこちらへと向けた。
左の耳の下で一まとめにした、鮮血のごとき赤い髪が肩にかかっている。
「顔を上げよ」
執務机に両ひじをつき、
組んだ手の上にあごを乗せて、
「久しぶりだな、我が弟よ」
──と、
ガルナティス王国アントラクス王朝の女王──イルムガンドル・クラウディア・アントラクスは、鋭い眼光でラグナードを見すえた。
「王様って──ラグナードのお兄さんじゃなくて、お姉さんだったの!?」
ラグナードの話しぶりから、キリはがっちりした筋骨隆々の男の王様を思い描いていた。
まさかガルナティスの現国王というのが女王だとは、考えてもみなかった。
とは言え──、
目の前の女性は、ひきしまった細身の体の美人ではあるものの、
廊下で会った宰相のように、なよっとした女っぽさとは無縁だった。
「女王」と呼ぶよりは「王」と呼ぶほうがしっくりくる。
金の肩章がある軍服に似た深紅の礼装に、深い緑のベスト。
男のような服装が違和感なく似合っている。
「この者たちは何だ?」
と、キリとジークフリートを目で示してラグナードにたずねる口調も、表情も、
身にまとう精悍な空気のすべてに、すきなく鍛え上げられた鋼鉄の印象があった。
「片方は、ずいぶんと珍しいなりをしているようだな」
なんというか、かっこいい女の人だなあ、とキリは思った。
「おい……!」と、突っ立っているキリとジークフリートをふり返って、ラグナードがムリヤリ頭を押さえて礼をとらせた。