キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
ぱたぱたと少女が顔の前で手を振った。
「あ。違うよ、人違い」
「違うのか! 人違いか!」
思わず声を上げる騎士に、
「わたしの名前はキリっていうの」と、少女は名乗った。
「あの忌々しいエリゼ・ド・シムノンのクソジジイなら、わたしの元師匠だよ」
にこにこと屈託の無い笑顔で、可憐な唇は不穏な空気を漂わせながらそう告白した。
「【霧のシムノン】に弟子がいたのか?」
初めて聞いた内容に青年は驚く。
弟子ならば、先刻のような魔法が使えるのも道理かもしれない。
弟子にしては、なぜか師に対する敬意が欠けた言いようだったが。
「シムノンは今、どこにいる?」
「知らないよー」
「なんだと」
「『元』師匠って言ったでしょ。あんなクソジジイとはとっくの昔に縁を切ったもん」
「縁を切った──!?」
白銀の騎士は美しい顔に一瞬落胆の色を浮かべて、
「ふん。まあ、いい」
すぐに気を取り直したように、鷹揚(おうよう)にうなずいた。
「とにかくこちらには時間がない。本人ではないのが残念だが……この際、元弟子でもかまわん。
俺が出会った在野の連中の中では、まあ一番マシな魔法使いだ。お前で我慢してやる。」
ずいぶんと上から目線の言い方だった。
「娘、キリとか言ったな。俺に力を貸せ」
誰かに力を借りに来た人間とは思えない騎士の態度に、キリと名乗った少女はかわいいほっぺたをぷうっとふくらませた。
「むー。なんかエラそうなやつだなー。
見た目どっかの金持ち領主に使える騎士か何かみたいだけど……まさか貴族?」
高価なしつらえに見える鎧やマントと、
どこかあか抜けたこの若者の立ち居振る舞い、
そして他人を見下すような鼻持ちならない態度は、いかにも高慢な貴族のおぼっちゃまという印象を与える。
「言葉を慎め、無礼者が」
キリの言葉に、冷ややかな口調で言い放ち、美しい青年は完璧な仕草で優雅にブロンドをかき上げて鼻を鳴らした。
「俺の名はラグナード・フォティア・アントラクス。
ガルナティス王国の王子だ」
「あ。違うよ、人違い」
「違うのか! 人違いか!」
思わず声を上げる騎士に、
「わたしの名前はキリっていうの」と、少女は名乗った。
「あの忌々しいエリゼ・ド・シムノンのクソジジイなら、わたしの元師匠だよ」
にこにこと屈託の無い笑顔で、可憐な唇は不穏な空気を漂わせながらそう告白した。
「【霧のシムノン】に弟子がいたのか?」
初めて聞いた内容に青年は驚く。
弟子ならば、先刻のような魔法が使えるのも道理かもしれない。
弟子にしては、なぜか師に対する敬意が欠けた言いようだったが。
「シムノンは今、どこにいる?」
「知らないよー」
「なんだと」
「『元』師匠って言ったでしょ。あんなクソジジイとはとっくの昔に縁を切ったもん」
「縁を切った──!?」
白銀の騎士は美しい顔に一瞬落胆の色を浮かべて、
「ふん。まあ、いい」
すぐに気を取り直したように、鷹揚(おうよう)にうなずいた。
「とにかくこちらには時間がない。本人ではないのが残念だが……この際、元弟子でもかまわん。
俺が出会った在野の連中の中では、まあ一番マシな魔法使いだ。お前で我慢してやる。」
ずいぶんと上から目線の言い方だった。
「娘、キリとか言ったな。俺に力を貸せ」
誰かに力を借りに来た人間とは思えない騎士の態度に、キリと名乗った少女はかわいいほっぺたをぷうっとふくらませた。
「むー。なんかエラそうなやつだなー。
見た目どっかの金持ち領主に使える騎士か何かみたいだけど……まさか貴族?」
高価なしつらえに見える鎧やマントと、
どこかあか抜けたこの若者の立ち居振る舞い、
そして他人を見下すような鼻持ちならない態度は、いかにも高慢な貴族のおぼっちゃまという印象を与える。
「言葉を慎め、無礼者が」
キリの言葉に、冷ややかな口調で言い放ち、美しい青年は完璧な仕草で優雅にブロンドをかき上げて鼻を鳴らした。
「俺の名はラグナード・フォティア・アントラクス。
ガルナティス王国の王子だ」