キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
『と言っても、俺が何を言っているかなど聞き取れまい』
すらすらとよどみなく、流れるように優美な単語の連なりがつむがれてゆく。
『庶民への配慮がわからぬとは、まったく嘆かわしいものだな』
ぽけっとした顔で彼の顔をながめている娘を見下しきった目に映してそう言って、
『それから──』
青年の美しい顔がかげりを帯びた。
『ことガルナティスにおいて、俺のこの容姿は王族とはほど遠い』
『どういう意味?』
『…………』
油断しきっていたところに予想外の言葉をかけられて、青年は絶句した。
キリが小首をかしげながらつやつやした唇に乗せたのは、青年とまったく同じ優美な響きの連なりだった。
『…………貴様、どうしてリンガー・レクスを……』
リンガー・レクス。
王族言語と呼ばれるこの言語は、その名のとおり各国の王族のみに代々伝えられ、
そして様々な地方言語が入り乱れて存在するこの地上で、五つの大陸全てで通じる王たちだけの共通言語でもある。
王同士のやりとりや国を超えた交渉、親睦を深めるための訪問などの際には、どこの大陸のどの国であっても、王族たちはリンガー・レクスで会話することができるし、
話し言葉しか持たない庶民たちのあまたの地方言語とは異なり、リンガー・レクスには文字が存在するため、正式な国の文書もすべてリンガー・レクスで作成される。
民衆は、一つの大陸内であっても言語の壁に遮られ、国家や地域を越えて交流することも団結することも難しい。
一方、共通言語リンガー・レクスで会話できる王侯貴族たちは、政略結婚で隣国から嫁いできた姫と王子の言葉が通じず困るということもない。
古来より民衆を支配するために、王族たちによって考え出された言語による支配システムであり、
リンガー・レクスを話せることこそ、まぎれもない王族の証のはずだった。
──のだが……
彼は、高貴なるその言語をあっさりと口にした庶民の──それもたった十七歳の少女を、信じられない思いで見つめた。
『いったい何者だ……?』
『わたし? わたしは魔法使いだもん』
キリはさも当然のように、すらすらとよどみのない調子で単語をつむぎ出して言った。
『まだ修行中の身だけど──リンガー・レクスを操れない魔法使いなんて、この世にいるわけないよ』
これまでまったく知らなかった事実を聞かされて、青年は再び絶句した。
『それより、あなたこそ何者?』
『……は?』
『うーん、ちゃんと王族言語も習得してるとは──』
目を点にする青年の前で、キリはうなった。
『──手の込んだ詐欺だな』
『なんでそうなる!』
すらすらとよどみなく、流れるように優美な単語の連なりがつむがれてゆく。
『庶民への配慮がわからぬとは、まったく嘆かわしいものだな』
ぽけっとした顔で彼の顔をながめている娘を見下しきった目に映してそう言って、
『それから──』
青年の美しい顔がかげりを帯びた。
『ことガルナティスにおいて、俺のこの容姿は王族とはほど遠い』
『どういう意味?』
『…………』
油断しきっていたところに予想外の言葉をかけられて、青年は絶句した。
キリが小首をかしげながらつやつやした唇に乗せたのは、青年とまったく同じ優美な響きの連なりだった。
『…………貴様、どうしてリンガー・レクスを……』
リンガー・レクス。
王族言語と呼ばれるこの言語は、その名のとおり各国の王族のみに代々伝えられ、
そして様々な地方言語が入り乱れて存在するこの地上で、五つの大陸全てで通じる王たちだけの共通言語でもある。
王同士のやりとりや国を超えた交渉、親睦を深めるための訪問などの際には、どこの大陸のどの国であっても、王族たちはリンガー・レクスで会話することができるし、
話し言葉しか持たない庶民たちのあまたの地方言語とは異なり、リンガー・レクスには文字が存在するため、正式な国の文書もすべてリンガー・レクスで作成される。
民衆は、一つの大陸内であっても言語の壁に遮られ、国家や地域を越えて交流することも団結することも難しい。
一方、共通言語リンガー・レクスで会話できる王侯貴族たちは、政略結婚で隣国から嫁いできた姫と王子の言葉が通じず困るということもない。
古来より民衆を支配するために、王族たちによって考え出された言語による支配システムであり、
リンガー・レクスを話せることこそ、まぎれもない王族の証のはずだった。
──のだが……
彼は、高貴なるその言語をあっさりと口にした庶民の──それもたった十七歳の少女を、信じられない思いで見つめた。
『いったい何者だ……?』
『わたし? わたしは魔法使いだもん』
キリはさも当然のように、すらすらとよどみのない調子で単語をつむぎ出して言った。
『まだ修行中の身だけど──リンガー・レクスを操れない魔法使いなんて、この世にいるわけないよ』
これまでまったく知らなかった事実を聞かされて、青年は再び絶句した。
『それより、あなたこそ何者?』
『……は?』
『うーん、ちゃんと王族言語も習得してるとは──』
目を点にする青年の前で、キリはうなった。
『──手の込んだ詐欺だな』
『なんでそうなる!』