キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「お待たせー」

と、キリがついたての後ろから出てきて、ドレスの裾を持ってくるりとその場で回った。


長いピンクの髪の毛をアップにして正装した少女の姿に、

ラグナードは不覚にも見入った。


キリが魔法使いだと知っているせいか、

夜をまとったような漆黒のドレスのせいか、

いまだ成熟しきっていない少女からは、神秘的な独特の色っぽさがただよっている。


キリは着替えを手伝ったメイドたちに、「どうもありがと」とお礼を言って、楽しそうにラグナードのそばまでよってきた。


「どう? どう?
ラグナードとジークフリートってば、思わず見とれちゃったでしょ」


キリが無垢な笑顔を向けてきて、


「いや、特には。動きづらそうな服だな」

ジークフリートが淡泊に感想を述べ、


「ふん、まあ悪くない。
馬子にも衣装というところか」

ラグナードは極力そっけない風を装って、上から目線でそう言った。


期待していた反応が返ってこなくて、

キリがぶー、とかわいいほっぺたをふくらませた。



「いいもん。
ハティ……だったっけ?
うふふ、どう? わたしってば、かわいい?」


部屋のすみっこで大きな体を小さくしているラグナードの犬にキリがたずねて、

エメラルドの瞳に映されたとたん、

ぎゃわん! と悲鳴を上げて犬はラグナードの後ろに逃げこんだ。


「ヒドいー」

キリは涙目になった。


「ハティ、きさま、俺の犬なのにおびえすぎだぞ」

キリからご主人様を遠ざけようと服の裾をひっぱる犬を、
いい加減うんざりしながらラグナードがしかった。

「こいつらは何もしない。こわがるな」


くうん、とハティは巨大な体に似合わないなさけない声を出して、

キリやジークフリートと平然と話をしているご主人様に、尊敬のまなざしを向けた。




すでに正装しているラグナードはそのままの格好で、キリとジークフリートをつれてふたたび部屋を後にした。


こういう時にはエスコートしてくれるものではないかとキリは期待したが、

王子様はキリを放りっぱなしで、案内役の執事の後について一人で先を歩いていく。


ならばとキリは天の人を見て──


エスコートとは何なのか? というところから説明しないとわかっていなさそうなジークフリートに、がっかりしながらあきらめた。




やがて、

先刻も訪れた、来た時の大広間に出て、


執事は、
今度は肖像画のあった広間とは反対側の扉へと、キリたちを案内した。


扉の前には兵士が二人、槍を構えて立っていて、

ラグナードの姿を認めると、交差していた槍をさっとまっすぐに立てて道を空けた。


執事が扉をノックする。

すぐさま、
中から召使いが顔を出して、扉を開けた。



王様の食事に招かれるなど、キリには初めての経験である。

どきどきしながら、ラグナードに続いて部屋の入り口をくぐって──



「お魚が泳いでる……」



視界に飛びこんできた光景に、我を忘れて立ちつくした。



< 245 / 263 >

この作品をシェア

pagetop