キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「お待たせー」
と、キリがついたての後ろから出てきて、ドレスの裾を持ってくるりとその場で回った。
長いピンクの髪の毛をアップにして正装した少女の姿に、
ラグナードは不覚にも見入った。
キリが魔法使いだと知っているせいか、
夜をまとったような漆黒のドレスのせいか、
いまだ成熟しきっていない少女からは、神秘的な独特の色っぽさがただよっている。
キリは着替えを手伝ったメイドたちに、「どうもありがと」とお礼を言って、楽しそうにラグナードのそばまでよってきた。
「どう? どう?
ラグナードとジークフリートってば、思わず見とれちゃったでしょ」
キリが無垢な笑顔を向けてきて、
「いや、特には。動きづらそうな服だな」
ジークフリートが淡泊に感想を述べ、
「ふん、まあ悪くない。
馬子にも衣装というところか」
ラグナードは極力そっけない風を装って、上から目線でそう言った。
期待していた反応が返ってこなくて、
キリがぶー、とかわいいほっぺたをふくらませた。
「いいもん。
ハティ……だったっけ?
うふふ、どう? わたしってば、かわいい?」
部屋のすみっこで大きな体を小さくしているラグナードの犬にキリがたずねて、
エメラルドの瞳に映されたとたん、
ぎゃわん! と悲鳴を上げて犬はラグナードの後ろに逃げこんだ。
「ヒドいー」
キリは涙目になった。
「ハティ、きさま、俺の犬なのにおびえすぎだぞ」
キリからご主人様を遠ざけようと服の裾をひっぱる犬を、
いい加減うんざりしながらラグナードがしかった。
「こいつらは何もしない。こわがるな」
くうん、とハティは巨大な体に似合わないなさけない声を出して、
キリやジークフリートと平然と話をしているご主人様に、尊敬のまなざしを向けた。
すでに正装しているラグナードはそのままの格好で、キリとジークフリートをつれてふたたび部屋を後にした。
こういう時にはエスコートしてくれるものではないかとキリは期待したが、
王子様はキリを放りっぱなしで、案内役の執事の後について一人で先を歩いていく。
ならばとキリは天の人を見て──
エスコートとは何なのか? というところから説明しないとわかっていなさそうなジークフリートに、がっかりしながらあきらめた。
やがて、
先刻も訪れた、来た時の大広間に出て、
執事は、
今度は肖像画のあった広間とは反対側の扉へと、キリたちを案内した。
扉の前には兵士が二人、槍を構えて立っていて、
ラグナードの姿を認めると、交差していた槍をさっとまっすぐに立てて道を空けた。
執事が扉をノックする。
すぐさま、
中から召使いが顔を出して、扉を開けた。
王様の食事に招かれるなど、キリには初めての経験である。
どきどきしながら、ラグナードに続いて部屋の入り口をくぐって──
「お魚が泳いでる……」
視界に飛びこんできた光景に、我を忘れて立ちつくした。
と、キリがついたての後ろから出てきて、ドレスの裾を持ってくるりとその場で回った。
長いピンクの髪の毛をアップにして正装した少女の姿に、
ラグナードは不覚にも見入った。
キリが魔法使いだと知っているせいか、
夜をまとったような漆黒のドレスのせいか、
いまだ成熟しきっていない少女からは、神秘的な独特の色っぽさがただよっている。
キリは着替えを手伝ったメイドたちに、「どうもありがと」とお礼を言って、楽しそうにラグナードのそばまでよってきた。
「どう? どう?
ラグナードとジークフリートってば、思わず見とれちゃったでしょ」
キリが無垢な笑顔を向けてきて、
「いや、特には。動きづらそうな服だな」
ジークフリートが淡泊に感想を述べ、
「ふん、まあ悪くない。
馬子にも衣装というところか」
ラグナードは極力そっけない風を装って、上から目線でそう言った。
期待していた反応が返ってこなくて、
キリがぶー、とかわいいほっぺたをふくらませた。
「いいもん。
ハティ……だったっけ?
うふふ、どう? わたしってば、かわいい?」
部屋のすみっこで大きな体を小さくしているラグナードの犬にキリがたずねて、
エメラルドの瞳に映されたとたん、
ぎゃわん! と悲鳴を上げて犬はラグナードの後ろに逃げこんだ。
「ヒドいー」
キリは涙目になった。
「ハティ、きさま、俺の犬なのにおびえすぎだぞ」
キリからご主人様を遠ざけようと服の裾をひっぱる犬を、
いい加減うんざりしながらラグナードがしかった。
「こいつらは何もしない。こわがるな」
くうん、とハティは巨大な体に似合わないなさけない声を出して、
キリやジークフリートと平然と話をしているご主人様に、尊敬のまなざしを向けた。
すでに正装しているラグナードはそのままの格好で、キリとジークフリートをつれてふたたび部屋を後にした。
こういう時にはエスコートしてくれるものではないかとキリは期待したが、
王子様はキリを放りっぱなしで、案内役の執事の後について一人で先を歩いていく。
ならばとキリは天の人を見て──
エスコートとは何なのか? というところから説明しないとわかっていなさそうなジークフリートに、がっかりしながらあきらめた。
やがて、
先刻も訪れた、来た時の大広間に出て、
執事は、
今度は肖像画のあった広間とは反対側の扉へと、キリたちを案内した。
扉の前には兵士が二人、槍を構えて立っていて、
ラグナードの姿を認めると、交差していた槍をさっとまっすぐに立てて道を空けた。
執事が扉をノックする。
すぐさま、
中から召使いが顔を出して、扉を開けた。
王様の食事に招かれるなど、キリには初めての経験である。
どきどきしながら、ラグナードに続いて部屋の入り口をくぐって──
「お魚が泳いでる……」
視界に飛びこんできた光景に、我を忘れて立ちつくした。