キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
召使いがイスを引き、
着席を促されて、

キリとジークフリートもテーブルの一番下座に落ち着いた。


すぐに金の杯や食器が並べられ、次々と料理が運びこまれる。


目の前に置かれた皿のふたを召使いがとり、


中から現れた料理を見て、キリは目を疑った。


前菜なのだろうか。


何かの鳥の肉とフルーツや野菜を和えたやわらかそうな料理が、かいだこともないようないい匂いを放ち、

その皿の上は色とりどりの花と、なんと宝石とで飾りつけられている。


さらに、金の杯にそそがれた葡萄酒の中にも、

飾りつけということなのか、召使いが大きなルビーを何粒か落として、キリはさらにおどろいた。


バラの花が浮かんだお風呂に入ったり、

こんな風に宝石で飾りつけられた料理を口にしたりするなんて、


王族というのはなんて贅沢なのだろうと、
あきれはてながら王子様に視線を送り──



キリは、あれっと思った。



どういったわけか、

ラグナードもまた、
目の前に並べられた料理を、キリと同じように目を丸くして見つめているのである。



食べ慣れている料理ではないのだろうかと、キリが首をひねっていると、


ラグナードは、なぜか怪訝(けげん)そうに眉をよせて、
下座にいる宮廷魔術師の姉と、
上座の女王の顔とを交互に見やった。


何やらとまどった様子のラグナードとは対照的に、
彼の二人の姉たちは、見慣れた料理だという様子で、当たり前の顔をして座っている。


ラグナードが整った眉をますますよせた。

ついに、
何事かを言おうとして、彼は口を開きかけ──


「では、食そう」

と言って、イルムガンドルが宝石の入った杯を掲げた。


ディジッタがそれにならって、
昨夜、キリが酒場で目にしたラグナードの仕草と同じように、一分の隙もない洗練された動きで杯を掲げ持った。


発言の機会を失って、ものいいたそうな表情のまま、
ラグナードがしぶしぶ開きかけた口を閉じて、やはり優美に金の杯を掲げる。


キリも自分の前の杯を持ち上げ、
ジークフリートも人間たちのマネをした。


「パイロープを奪還した勇者たちに」

赤い髪の国王の声が高らかに響いて、美しい唇が杯の中身を飲み干す。

ディジッタが同様に杯を傾け、
ラグナードも顔をしかめながら葡萄酒をのどの奥へと流しこむ。

キリも、王家の一族の髪のように赤い液体を飲み干そうとして──


ラグナードが顔をしかめていた理由がわかった。


じゃらじゃらとルビーが入った杯から、宝石を飲みこまないように気をつけて酒だけを飲み干すのは、骨が折れた。

どうやっても口の中にルビーがすべりこんできて、
キリはそのたびに赤い石をはき出して杯の中にもどさなければならなかった。

われながらお行儀が悪いと思って、
確かに贅沢かもしれないけれど、こんな面倒な飲み物を用意するなんて、王族というのは何を考えているのだろうと首をかしげる。


「さあ、遠慮せず『残さずすべて』平らげるがいい」

女王に言われて、前菜にとりかかって──


ふたたび

キリは辟易(へきえき)した。


美しく飾られた料理は、これまで食べたこともないほどおいしかった。

だが──



お肉や野菜の中には花だの宝石だのが混ざっていて、やっぱり食べづらいことこの上ない。



キリが必死になって、食べられるものと食べられないものとをより分けていると、




ボリボリという、
小気味良い音が聞こえてきて、キリはそちらを見た。




ボリボリ、ガリガリ、


やわらかな料理の内容からは、どうやっても立てることが不可能な音を出しながらもぐもぐと口を動かしているのはジークフリートだった。




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