キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
キリと同様に飾りと料理のより分けに奮闘していたラグナードが、ナイフとフォークの動きを止めてあんぐりと口を開けた。
皆の視線が突き刺さる中で、
天の少年は、料理を『残さずすべて』平らげていた。
言葉どおりに。
天の魔法使いは、
ぎこちなくフォークとナイフを使って、宝石と花と肉と野菜をまとめて口の中に放りこむ。
ガリガリ、バキバキ、
ほっぺたの中からあり得ない音を出し、表情のない顔は噛み砕かれた料理をごくりと飲みこむ。
皿の上のものがきれいさっぱりなくなると、
ジークフリートは手にしていたナイフとフォークをガリガリと噛み砕き──
──飲みこんだ。
続いて、
料理が乗っていた皿に手をのばし、
天の人は、金でできた食器をクッキーのようにバリバリとかじって、食べてしまった。
見れば、葡萄酒が注がれていた杯も、
中のルビーどころか外の部分まで消えて、天の人の前には杯の脚だけが残っている。
ジークフリートにかじられて、見る見る小さくなっていく金の食器をながめながら、
キリは今さらのように、
飛行騎杖に酔ったとき、この美しい少年がはき出したものが何だったかを思い出す。
キラキラ輝く、無数の鉱物や宝石のかけらを天の人ははき出したのだ。
「へ、陛下、」
あっけにとられていたラグナードが、あわてふためいてフォローしようと声を上げた。
「この者は──……」
「わがガルナティスの宮廷が誇る料理の味はいかがかな?」
弟を無視して、イルムガンドルはじっとジークフリートを見つめたままたずねた。
キリはぞっとする。
イルムガンドルも、
ディジッタも、
二人の王族は料理になどいっさい手をつけず、
杯を置いた瞬間から食い入るように、この羽の生えた少年の挙動だけに視線を注いでいたのだった。
「うん、悪くない」
ジークフリートがのんきに背中の羽をわさわさと動かしてうなずいた。
「いいルビーだな。
サファイアも質がいい」
天の人の口から、
地上の人間が肉や果物の品質をほめるかのように『食材』の感想が飛び出して、
ようやく目の前にいる種族に対する認識の甘さを思い知り、ラグナードが真っ青になった。
「そうか、それは良かった」
イルムガンドルが唇だけでほほえむ。
鋼玉の目はまったく笑っていなかった。
「では、軽鉱石と鉄鋼のスープもどうだ?」
国王が目で合図して、
しずしずと運びこまれ、ジークフリートの前に置かれた料理は、もはや人の食べ物ではなかった。
キリにも、
この食卓が何の意図で用意されたものなのか理解できた。
「これもうまそうだ」
金属でできたスープの具を見下ろして、そうつぶやいた天の人を見て、
長いオレンジの髪を揺らし、ディジッタが無言で立ち上がった。
その瞳が、青く燃えている。
"フランマー・ルムペ"
有翼の少年をにらみ据え、
宮廷魔術師の唇が、炎の呪文を唱えた。
皆の視線が突き刺さる中で、
天の少年は、料理を『残さずすべて』平らげていた。
言葉どおりに。
天の魔法使いは、
ぎこちなくフォークとナイフを使って、宝石と花と肉と野菜をまとめて口の中に放りこむ。
ガリガリ、バキバキ、
ほっぺたの中からあり得ない音を出し、表情のない顔は噛み砕かれた料理をごくりと飲みこむ。
皿の上のものがきれいさっぱりなくなると、
ジークフリートは手にしていたナイフとフォークをガリガリと噛み砕き──
──飲みこんだ。
続いて、
料理が乗っていた皿に手をのばし、
天の人は、金でできた食器をクッキーのようにバリバリとかじって、食べてしまった。
見れば、葡萄酒が注がれていた杯も、
中のルビーどころか外の部分まで消えて、天の人の前には杯の脚だけが残っている。
ジークフリートにかじられて、見る見る小さくなっていく金の食器をながめながら、
キリは今さらのように、
飛行騎杖に酔ったとき、この美しい少年がはき出したものが何だったかを思い出す。
キラキラ輝く、無数の鉱物や宝石のかけらを天の人ははき出したのだ。
「へ、陛下、」
あっけにとられていたラグナードが、あわてふためいてフォローしようと声を上げた。
「この者は──……」
「わがガルナティスの宮廷が誇る料理の味はいかがかな?」
弟を無視して、イルムガンドルはじっとジークフリートを見つめたままたずねた。
キリはぞっとする。
イルムガンドルも、
ディジッタも、
二人の王族は料理になどいっさい手をつけず、
杯を置いた瞬間から食い入るように、この羽の生えた少年の挙動だけに視線を注いでいたのだった。
「うん、悪くない」
ジークフリートがのんきに背中の羽をわさわさと動かしてうなずいた。
「いいルビーだな。
サファイアも質がいい」
天の人の口から、
地上の人間が肉や果物の品質をほめるかのように『食材』の感想が飛び出して、
ようやく目の前にいる種族に対する認識の甘さを思い知り、ラグナードが真っ青になった。
「そうか、それは良かった」
イルムガンドルが唇だけでほほえむ。
鋼玉の目はまったく笑っていなかった。
「では、軽鉱石と鉄鋼のスープもどうだ?」
国王が目で合図して、
しずしずと運びこまれ、ジークフリートの前に置かれた料理は、もはや人の食べ物ではなかった。
キリにも、
この食卓が何の意図で用意されたものなのか理解できた。
「これもうまそうだ」
金属でできたスープの具を見下ろして、そうつぶやいた天の人を見て、
長いオレンジの髪を揺らし、ディジッタが無言で立ち上がった。
その瞳が、青く燃えている。
"フランマー・ルムペ"
有翼の少年をにらみ据え、
宮廷魔術師の唇が、炎の呪文を唱えた。