キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「だってさー、普通だれも信じないよ? 護衛の人を一人も連れずにこんな場所に王子様が来るなんて」
キリという魔法使いの少女はどうやら、嵐の晩に王子様がたった一人で森の奥の家を訪ねてくるという状況に対して、徹底的に懐疑的になっているようだった。
「あなた……ええと、ラグナードって言ってたっけ? それって本名?」
「本名だッ!」
力いっぱいどなってから、ラグナードはため息をついた。
「とにかく、事情がある。俺の話を聞け」
言い放つと、彼は鎧の靴音を響かせてつかつかと暖炉のそばに置かれたテーブルに歩み寄り、イスの前に立った。
見たところキリは一人暮らしのようだが、怪しげな薬やら何やらで埋め尽くされたテーブルには、こんな森の中にどんな来客があるというのか──イスが二脚、向かい合うように設置されている。
「おい、何をしている」
「はい?」
「早くイスを引け」
「はい?」
ぽかんとしている少女を見て、ラグナードは整った眉を寄せた。
「このまま立ち話を続ける気か?」
気が利かない女だ、と言わんばかりに、美しい顔が渋面を作る。
「座って話したい。早くしろ」
「いや、早くしろって……」
席を勧められたわけでもないのに、他人の家のテーブルに勝手に着こうとした上、高圧的な態度で命じる若者を見て、少女は困惑した表情になった。
「座りたいなら、どうぞ。自分でイス引けば……」
「この俺に自らイスを引けと言うのか?」
信じられない言葉を聞いたという様子で、この自称王子様は紫の双眸を丸くした。
「ばかな冗談を言っていないで早くしろ」
「…………」
キリという魔法使いの少女はどうやら、嵐の晩に王子様がたった一人で森の奥の家を訪ねてくるという状況に対して、徹底的に懐疑的になっているようだった。
「あなた……ええと、ラグナードって言ってたっけ? それって本名?」
「本名だッ!」
力いっぱいどなってから、ラグナードはため息をついた。
「とにかく、事情がある。俺の話を聞け」
言い放つと、彼は鎧の靴音を響かせてつかつかと暖炉のそばに置かれたテーブルに歩み寄り、イスの前に立った。
見たところキリは一人暮らしのようだが、怪しげな薬やら何やらで埋め尽くされたテーブルには、こんな森の中にどんな来客があるというのか──イスが二脚、向かい合うように設置されている。
「おい、何をしている」
「はい?」
「早くイスを引け」
「はい?」
ぽかんとしている少女を見て、ラグナードは整った眉を寄せた。
「このまま立ち話を続ける気か?」
気が利かない女だ、と言わんばかりに、美しい顔が渋面を作る。
「座って話したい。早くしろ」
「いや、早くしろって……」
席を勧められたわけでもないのに、他人の家のテーブルに勝手に着こうとした上、高圧的な態度で命じる若者を見て、少女は困惑した表情になった。
「座りたいなら、どうぞ。自分でイス引けば……」
「この俺に自らイスを引けと言うのか?」
信じられない言葉を聞いたという様子で、この自称王子様は紫の双眸を丸くした。
「ばかな冗談を言っていないで早くしろ」
「…………」