キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
キリは物言いたそうにしばらくラグナードを見て、──あきらめたように人差し指を動かした。

指の動きにそって、イスがひとりでに動きテーブルとの間に空間を作る。

「ほう? 魔法か。ご苦労」

偉そうに言いながら腰の剣をベルトから外してテーブルに立てかけて置き、ガシャリと音を立てて鎧武者が腰を下ろす。

一瞬、キリはその動きに合わせてさらに後方にイスを引いて、この高飛車な若者を転ばせてやりたい衝動にかられたが、なんとか思いとどまった。

「何を突っ立っている? お前もとっとと座れ」

イスに座ったまま、ラグナードが命じた。

「うーん……少なくとも、どこかの国に仕える貴族や騎士ではなさそう……」

騎士道の中に含まれるという婦人への奉仕の精神は、目の前の男からはきれいさっぱり欠落している。

ぼやきながら自分もイスに座ろうとしたキリに、「ああ、いや待て」とラグナードが制止の声をかけた。

「え?」

ひょっとしてイスを引いてくれるのだろうか、と少女の中で淡い期待が頭をもたげて、

「その前にこの散らかったテーブルを片づけて何か温かい食べ物でも出してもらおうか。
森をさまよって、ロクなものを食っていなかったからな」

「…………」

当然のことのように注文する美しい鎧騎士に、彼女は言葉を失って立ちつくした。
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