キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「ええと、夕ご飯のヒカリダケのスープの残りならあるけど」
キリが暖炉の上に放置されてぐつぐつと煮えている鍋を指さした。
「食べる?」
ヒカリダケの出汁がしっかり出たスープは、青紫色に染まってほんのり光っている。
「……いや……ヒカリダケは……」
ラグナードの頬が引きつった。
「手持ちの食料が底をついて昨日からヒカリダケしか食ってないんだ」
「ふーん。じゃあ、温かい飲み物はいかが?」
「もらおうか」
普通の人間ならば気を悪くしてもおかしくない態度のラグナードにも、そういったことに頓着しない性格なのか、あるいは心が広くて優しい性格なのか──キリは面食らった様子は見せても怒り出しはしなかった。
素直に応じてテーブルを片づけ飲み物の用意を始める。
ちなみに今、二人が会話に用いている言語はリンガー・レクスではなく、また先刻まで会話していたゴンドワナ大陸の地方言語でもない。
王族の言葉であるリンガー・レクス以外にも、五つの大陸のすべての国で通じる言語は二つ存在する。
その一つが、リンガー・ノブリス。
貴族語である。
貴族語は、リンガー・レクスほど難解ではなく、世界各国の王族たちも、公の場以外では普段、貴族語で会話をしている。
庶民でありながら、キリはこのリンガー・ノブリスすらもペラペラと難なく話せるようだ。
共通語にはもう一つ、魔法使いたちが使う賢人言語リンガー・マギというものも存在するが、こちらは王族や貴族にも喋ることのできる者はいない秘密言語である。
魔法の書物はすべてこのリンガー・マギで書かれている。
このリンガー・マギを学ぶとき、リンガー・レクスが必要になるのだと、キリは説明した。
文字が存在しない世界中の地方言語に対応した辞書などなく、昔からのならわしで、賢人言語を訳すためには王族言語を経由することになるのだ。
このため、魔法使いは皆、最初に師匠からリンガー・レクスを習得する。
「なるほどな。しかしなぜお前は、貴族語まで喋ることができる?」
「あー。エスメラルダでは貴族語が標準語だったから」
きれいに片づいたテーブルの上に、カップを二つとお砂糖やミルク、はちみつを並べながらキリがのんびりと答えたとたん、ラグナードの顔色がさっと変わった。
「なに!? 貴様、エスメラルダの人間か!?」
キリが暖炉の上に放置されてぐつぐつと煮えている鍋を指さした。
「食べる?」
ヒカリダケの出汁がしっかり出たスープは、青紫色に染まってほんのり光っている。
「……いや……ヒカリダケは……」
ラグナードの頬が引きつった。
「手持ちの食料が底をついて昨日からヒカリダケしか食ってないんだ」
「ふーん。じゃあ、温かい飲み物はいかが?」
「もらおうか」
普通の人間ならば気を悪くしてもおかしくない態度のラグナードにも、そういったことに頓着しない性格なのか、あるいは心が広くて優しい性格なのか──キリは面食らった様子は見せても怒り出しはしなかった。
素直に応じてテーブルを片づけ飲み物の用意を始める。
ちなみに今、二人が会話に用いている言語はリンガー・レクスではなく、また先刻まで会話していたゴンドワナ大陸の地方言語でもない。
王族の言葉であるリンガー・レクス以外にも、五つの大陸のすべての国で通じる言語は二つ存在する。
その一つが、リンガー・ノブリス。
貴族語である。
貴族語は、リンガー・レクスほど難解ではなく、世界各国の王族たちも、公の場以外では普段、貴族語で会話をしている。
庶民でありながら、キリはこのリンガー・ノブリスすらもペラペラと難なく話せるようだ。
共通語にはもう一つ、魔法使いたちが使う賢人言語リンガー・マギというものも存在するが、こちらは王族や貴族にも喋ることのできる者はいない秘密言語である。
魔法の書物はすべてこのリンガー・マギで書かれている。
このリンガー・マギを学ぶとき、リンガー・レクスが必要になるのだと、キリは説明した。
文字が存在しない世界中の地方言語に対応した辞書などなく、昔からのならわしで、賢人言語を訳すためには王族言語を経由することになるのだ。
このため、魔法使いは皆、最初に師匠からリンガー・レクスを習得する。
「なるほどな。しかしなぜお前は、貴族語まで喋ることができる?」
「あー。エスメラルダでは貴族語が標準語だったから」
きれいに片づいたテーブルの上に、カップを二つとお砂糖やミルク、はちみつを並べながらキリがのんびりと答えたとたん、ラグナードの顔色がさっと変わった。
「なに!? 貴様、エスメラルダの人間か!?」