キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
巨大な指輪の内側に彫られた模様のように、内部に広がる空を囲んで環状にぐるりと並ぶ五つの大地【大いなる回廊ニーベルング】。


霧の中に浮かぶ世界は、太古には完全なリングの形をした超大陸だったと言われているが、しだいに大地は割れ、周囲を漂う海の水が流れ込み、五つに分かれたのだという。

神話では、大地の神々と霧の魔物たちとの争いが起き、魔物を率いる悪魔の王の一人が大地を引き裂いて五つに分けたとされ、

大陸は形成された順に、第一大陸ケノーランド、第二大陸エバーニア、第三大陸ローレンシア、第四大陸パノティア、そして今キリたちがいるこの第五大陸ゴンドワナと呼ばれている。


今夜のような嵐では雲にさえぎられて何も見えないが、晴れ渡った晩には世界の反対側にある大陸の影や、様々な国の都の幾万もの明るい灯火の輝きが、幻想的に星空の向こう側に浮かび上がる。


ちょうどこの大陸の向かいに位置するエバーニアは、キリもこれまでいつも頭上に仰いで、その地形ならば見慣れていたのだが……

「えーと、ガルナティス王国ってどの辺りだっけ?」

あらためて言われると、異大陸の国がどういう配置になっていて、どういう情勢下にあるのかはあまり頭の中に入っていなかった。

「庶民の持ち物にしては高価な品だな」

ガラスの世界儀を両手で持ち上げて回転させ、第二大陸エバーニアをのぞき込むキリを見て、ラグナードは鼻を鳴らした。

「シムノンのジジイがエスメラルダから持ち出して置いてったものだからね」

答えつつ、世界儀上に書き込まれたガルナティス王国という文字を見つけ、キリは周辺の地理を確認する。

大陸間を除けば、世界には東側と西側に大海が広がっている。

ガルナティスは国土の東の一部が海に面した国のようだった。


「ほんとだ、周りに七つ国がある」

と言っても、どの国もガルナティスに比べると小国だ。

あまたの小国がひしめく第二大陸の国家の中でも、ガルナティス王国の国土は広く、かなり大きな国と言える。


国境を接する国のうち、地図上でもっとも大きな国はザルキム公国という国だが、それでも国土面積で言えばガルナティスの三分の二ほどだろうか。


「国境を接する七つの国のうち、三か国とは断続的な交戦状態だ」

と、ラグナードが説明した。
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