キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「残りの四か国も、オリバイン王国との国交は断絶状態だし、同盟関係にあったヘリオドール王国がザルキム公国に攻め滅ぼされてザルキム領になってから、確実に友好的な関係にあると言えるのは二か国のみになった」
キリが手にしているこの世界儀は特別なもので、魔法の地図でもあった。
戦乱によって刻々と変化する世界各地の国の名前や国境線が、変化に合わせて再現され、勝手に地図が書き換えられてゆく便利なものだ。
どうやら今ガルナティスと隣同士になっているザルキム公国という大きな国の位置には、もともと別の国があったということらしい。
「確かに、こんな敵だらけの状態で、手に負えない怪物が現れたなんて噂が広まると大変そうだね。それで?」
キリは世界儀をテーブルのわきに寄せて、話の先をうながした。
「三百人の兵を失ってから、半年、ガルナティスはパイロープに何の対策もとれなかった。
王立議会はこれ以上の兵を国内の変事に費やして失うことを恐れ、さらに軍を送り込むべきだという意見は却下された。
俺も、正体不明の怪物のせいで無駄に軍に被害が出るのは防ぎたい。だが……」
ラグナードはきれいな顔に似合わない、氷のような表情を作ってあざ笑った。
「ふん。臆病な貴族どもの意見をこのまま聞き続けていたら、遠からずガルナティス王国はパイロープ一帯の広大な土地を放棄することになるだろう」
「自分の国の領土を放棄するの?」
キリは目をまん丸にした。
「そんなことしたら──そこに住んでる人たちはどうなるの?」
ラグナードは何も答えず、
「だから半年前、俺はかねてより話があった国外留学のために国を離れたと偽って──この半年間、世界中の名のある魔法使いを訪ね歩いた。
パイロープに乗り込んで、ガルナティスの異変の原因を突き止め、白い怪物とやらを倒せる力を持った人間を集めるためにな」
と言った。
「お供も連れずに一人で? 王子様自ら?」
「他の連中に知れたら、猛反対されるに決まっているからな」
「そりゃそうだ」
キリはぼう然としながらうなずいた。
国民のことを思ってのことなのか、別の理由があるのか今の話だけではわからなかったが、彼の語った内容が本当ならば、とんでもない行動力と非常識さを併せ持った王子様である。
「実際は、集めるどころではなかったが。魔法使いが聞いてあきれる」
これまで彼が訪ね歩いた魔法使いたちは、インチキ占い師のまねごとをしてみせたり、せいぜいが物を少し動かしたり、そんな子供だましの『魔法』しか使うことができなかったのだ。
怪物を倒せるどころか、パイロープから生きて戻らなかった宮廷魔術師にも遠く及ばない魔法使いばかりだった。
キリが手にしているこの世界儀は特別なもので、魔法の地図でもあった。
戦乱によって刻々と変化する世界各地の国の名前や国境線が、変化に合わせて再現され、勝手に地図が書き換えられてゆく便利なものだ。
どうやら今ガルナティスと隣同士になっているザルキム公国という大きな国の位置には、もともと別の国があったということらしい。
「確かに、こんな敵だらけの状態で、手に負えない怪物が現れたなんて噂が広まると大変そうだね。それで?」
キリは世界儀をテーブルのわきに寄せて、話の先をうながした。
「三百人の兵を失ってから、半年、ガルナティスはパイロープに何の対策もとれなかった。
王立議会はこれ以上の兵を国内の変事に費やして失うことを恐れ、さらに軍を送り込むべきだという意見は却下された。
俺も、正体不明の怪物のせいで無駄に軍に被害が出るのは防ぎたい。だが……」
ラグナードはきれいな顔に似合わない、氷のような表情を作ってあざ笑った。
「ふん。臆病な貴族どもの意見をこのまま聞き続けていたら、遠からずガルナティス王国はパイロープ一帯の広大な土地を放棄することになるだろう」
「自分の国の領土を放棄するの?」
キリは目をまん丸にした。
「そんなことしたら──そこに住んでる人たちはどうなるの?」
ラグナードは何も答えず、
「だから半年前、俺はかねてより話があった国外留学のために国を離れたと偽って──この半年間、世界中の名のある魔法使いを訪ね歩いた。
パイロープに乗り込んで、ガルナティスの異変の原因を突き止め、白い怪物とやらを倒せる力を持った人間を集めるためにな」
と言った。
「お供も連れずに一人で? 王子様自ら?」
「他の連中に知れたら、猛反対されるに決まっているからな」
「そりゃそうだ」
キリはぼう然としながらうなずいた。
国民のことを思ってのことなのか、別の理由があるのか今の話だけではわからなかったが、彼の語った内容が本当ならば、とんでもない行動力と非常識さを併せ持った王子様である。
「実際は、集めるどころではなかったが。魔法使いが聞いてあきれる」
これまで彼が訪ね歩いた魔法使いたちは、インチキ占い師のまねごとをしてみせたり、せいぜいが物を少し動かしたり、そんな子供だましの『魔法』しか使うことができなかったのだ。
怪物を倒せるどころか、パイロープから生きて戻らなかった宮廷魔術師にも遠く及ばない魔法使いばかりだった。