キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「そうだよ?」

「はっ、冗談じゃない!」

冷笑とともに吐き捨てるラグナードをキリは不思議そうに見つめて、空になった自分のカップに卵を割り入れた。

「だいたい、怪物退治ができる魔法使いを探すなら、王子様が半年も世界中を一人で駆け回るより、エスメラルダに頼むのが一番早いと思うんだけど」

「そうだな。バカでもそう考えるだろうな」

生卵をかき混ぜているキリに、見下しきった様子でそう言って、

ラグナードはテーブルのすみに置かれたままの世界儀に、視線を投げた。


地図の大陸の部分ではなく、ガラスで作られた海の上にぽつんと一つ描かれた点が、冷たい薄紫色の瞳に映る。



エスメラルダという特殊な国がある。

魔法教国の名で知られる世界で最も小さなその国は、秘密のヴェールに包まれた魔法使いたちの国だ。


エスメラルダの国民となる条件はただ一つ、魔法使いであることだけで、

魔法使いならば、多くの者が当然のようにエスメラルダに移り住むことを望む。


世界中の魔法使いが集まるエスメラルダでは、他の国では決して学べない高度な魔法の数々を学ぶことができるからだ。

エスメラルダは他の国に対して、その優れた様々な魔法の技術を秘匿し、世界で最も進んだ高度な魔法の知識を独占している。



そして、



世界最小の国は、かつて世界で最も大きな国でもあった。



一千年前、神聖エスメラルダ帝国の名で、五つの大陸全ての国を支配し

神の御技とされた魔法の力で世界帝国として君臨した者たちの末裔こそが、現在のエスメラルダの魔法使いだった。



「この俺も、世界の有名な魔法使いくらいは把握している。
だがエスメラルダの連中の手を借りるくらいなら、他国の宮廷魔術師にでも頼んだほうがマシだ」

不愉快そうに眉を歪めるラグナードの前で、キリは卵にミルクとはちみつを入れつつ首をひねった。


「なんで? エスメラルダが魔法で世界を支配してたのは、千年も昔の話だよ?

今のエスメラルダは他の国に対しては絶対不可侵で、魔法の研究にしか興味のない魔法使いばかりが集まった無害な国だと思うんだけどな」


「ふん、千年も昔の話……だと?」


ラグナードは飲み干した卵ドリンクのカップを見下ろして鼻を鳴らした。

おいしかったが、甘ったるい卵は思ったよりも胃にもたれた。

二杯目を作ろうとしているキリの気がしれなかった。


「お前が言っているのは、我が国ガルナティスとエスメラルダの因縁のことか?」


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