キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)

夜とベッドと甘いキス

「優しい人は、そんな超個人的な目的で世界中の人間を殺して旅したりはしない」

「えーっ？　そうなの？」

「…………」

目の前の娘の理解不能な感覚にめまいを覚えて、ラグナードはこめかみを押さえた。

「あ。でもでも、ラグナードは魔法使いじゃないから、きっと殺されないよ。
困ってるって言ったらきっと怪物退治に協力してくれると思うよ」

「百歩譲ってその通りだったとしても、初対面の人間を問答無用で焼き殺そうとする魔法使いなど、自分の国には絶対に連れて帰りたくない」

というか、そんな人間には一生のうち一秒でも関わり合いになりたくない。

彼は心の底からそう思った。


自分が強くなるためにそんな道場破りまがいのマネをして回るとは、物語に出てくる武者修行の剣士のような熱血漢であるとも言える。

火炎の魔法を使う青星のアルシャラというのは、まさに火のような性格の人間なのかもしれない、とラグナードは思った。

暴走する炎が連想できた。


「通説が証明されたな。
エスメラルダの魔法使いは、本当に何をしでかすかわからん連中だとよくわかった」

「そんなあ」

ラグナードがため息をはき出し、キリは悲しそうにうなだれた。


「しかしアルシャラに殺されかけて生きているということは……キリ、お前は世界で有数の力を持った魔法使いとも互角に渡り合えるほど強いと言えるんじゃないのか？」

やはりラグナードには、在野の魔法使いたちがそろって最強の魔法使いと呼称しただけのことはあるように思われた。

「うーん、どうかなあ？
わたしがアルシャラに殺されなかったのはね、霧の魔法の性質と、わたしを殺すことが彼の目的にはつながらなかったから」

キリはそんなよくわからない答えを返してきた。

「では、もう一度きく。
お前はパイロープの異変の原因がわかるか？
お前には、吹雪の中に現れた怪物を倒すことができるか？」

真剣な問いを繰り返すラグナードの視線の先で、「うーん」とキリは考え込んで、

「もしもその怪物の正体っていうのが、わたしの想像どおりのものなら」

そう答えた。

「霧の魔法を使えるわたしにならなんとかできる……かもしれない」

「それは、つまりパイロープに出現した怪物というのが──」

ラグナードは、ガルナティスの宮廷でもまことしやかにささやかれていた、怪物の正体についての不吉な推測を思い浮かべた。



「──霧の魔物だということか」