キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「条件とはなんだ?」
キリの瞳がきらりと輝いた。
「ヴェズルングの杖!」
と、ほしくてたまらないオモチャをねだる子供のように、魔法使いの少女は声を上げた。
「【霧のヴェズルング】の杖をわたしにちょうだい」
ガルナティス王国は、世間では神聖エスメラルダを滅亡させたという歴史で有名な国だが、
それに加えてもう一つ、世界中の魔法使いたちの間では、魔法使いだけが知る「あること」で有名な国だった。
それがヴェズルングの杖だ。
各国の細かな情勢や周辺地理など知りもしないキリが、ラグナードの口からガルナティスの名を聞いてすぐに、エバーニアにある国だと返すことができたのもこのためだ。
魔法使いならば誰でも、ガルナティスという国の名と、王国に眠るその伝説の杖の存在を知っている。
在野の魔法使いたちがラグナードに「魔法使いの中で最強なのは『霧の魔法使い』だ」と口々に語ったのは、
実は、一人の歴史上の魔法使いが作り上げたイメージによるところが大きい。
千年前に生きた魔法使い【霧のヴェズルング】。
千年の大昔、世界で唯一、霧の魔法を使うことができた魔法使いであり、
そして彼こそが神聖エスメラルダを滅亡させた影の立役者である、と魔法使いたちの間では伝えられている。
ガルナティス王国が神聖エスメラルダを滅ぼし帝国の支配から世界を解放することができたのは、ヴェズルングがガルナティスに手を貸したからこそだと。
霧の魔法を使って神聖帝国の幾万もの魔法使いをことごとく打ち破り、帝国の魔法の軍勢をたった一人で蹴散らした恐るべき魔法使い。
その後の歴史に登場したどんなに強い魔法使いにも、
現在、五つの大陸で強いと言われているどんな有名な魔法使いにも、
彼のようなマネができる者は一人としていない。
史上最強の魔法使いは誰かと問われれば、彼をおいて他にはいないと十人が十人とも答えるだろう。
魔法使いの中で伝説となっているそんな【霧のヴェズルング】が、生前彼の魔法の全てを込めて遺した杖。
魔法使いならばのどから手が出るほどほしいものだ。
「ガルナティスにあるんでしょ?」
ラグナードに顔を寄せて、キリはきらきらした青リンゴ色の瞳で薄紫の瞳をのぞきこんだ。
ヴェズルングの死後、最強の魔法使いの杖がよこしまな者の手に渡って悪用されないよう、ガルナティスの王家は代々杖を守り続けている、というのが魔法使いの間に伝わる話だった。
「ラグナードが王家の人間なら、杖の所有権を握ってるってことだよね。
わたしにヴェズルングの杖をくれるなら、パイロープに行って怪物をなんとかしてあげる」
杖の話が出たとたん、自称ガルナティスの王子様は眉間にしわを寄せた。
「ヴェズルングの杖だと──?」
ラグナードは顔をしかめた。
キリの瞳がきらりと輝いた。
「ヴェズルングの杖!」
と、ほしくてたまらないオモチャをねだる子供のように、魔法使いの少女は声を上げた。
「【霧のヴェズルング】の杖をわたしにちょうだい」
ガルナティス王国は、世間では神聖エスメラルダを滅亡させたという歴史で有名な国だが、
それに加えてもう一つ、世界中の魔法使いたちの間では、魔法使いだけが知る「あること」で有名な国だった。
それがヴェズルングの杖だ。
各国の細かな情勢や周辺地理など知りもしないキリが、ラグナードの口からガルナティスの名を聞いてすぐに、エバーニアにある国だと返すことができたのもこのためだ。
魔法使いならば誰でも、ガルナティスという国の名と、王国に眠るその伝説の杖の存在を知っている。
在野の魔法使いたちがラグナードに「魔法使いの中で最強なのは『霧の魔法使い』だ」と口々に語ったのは、
実は、一人の歴史上の魔法使いが作り上げたイメージによるところが大きい。
千年前に生きた魔法使い【霧のヴェズルング】。
千年の大昔、世界で唯一、霧の魔法を使うことができた魔法使いであり、
そして彼こそが神聖エスメラルダを滅亡させた影の立役者である、と魔法使いたちの間では伝えられている。
ガルナティス王国が神聖エスメラルダを滅ぼし帝国の支配から世界を解放することができたのは、ヴェズルングがガルナティスに手を貸したからこそだと。
霧の魔法を使って神聖帝国の幾万もの魔法使いをことごとく打ち破り、帝国の魔法の軍勢をたった一人で蹴散らした恐るべき魔法使い。
その後の歴史に登場したどんなに強い魔法使いにも、
現在、五つの大陸で強いと言われているどんな有名な魔法使いにも、
彼のようなマネができる者は一人としていない。
史上最強の魔法使いは誰かと問われれば、彼をおいて他にはいないと十人が十人とも答えるだろう。
魔法使いの中で伝説となっているそんな【霧のヴェズルング】が、生前彼の魔法の全てを込めて遺した杖。
魔法使いならばのどから手が出るほどほしいものだ。
「ガルナティスにあるんでしょ?」
ラグナードに顔を寄せて、キリはきらきらした青リンゴ色の瞳で薄紫の瞳をのぞきこんだ。
ヴェズルングの死後、最強の魔法使いの杖がよこしまな者の手に渡って悪用されないよう、ガルナティスの王家は代々杖を守り続けている、というのが魔法使いの間に伝わる話だった。
「ラグナードが王家の人間なら、杖の所有権を握ってるってことだよね。
わたしにヴェズルングの杖をくれるなら、パイロープに行って怪物をなんとかしてあげる」
杖の話が出たとたん、自称ガルナティスの王子様は眉間にしわを寄せた。
「ヴェズルングの杖だと──?」
ラグナードは顔をしかめた。