キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「ねっ、ねっ、いいでしょ、お願い」
こんなチャンスはまたとないとばかりに、キリは食い下がった。
「ガルナティスの王家が杖を守ってきたのは、よこしまな者に渡さないためでしょ?
幸いなことに、わたしの心はとってもキレイだもん」
「いや、ちょっと待て……!」
「杖をくれたら、ガルナティスの代わりにわたしが杖を悪者から守ってあげる。
悪いことにはたぶん使わないから、安心していいよ? ねっ?」
「『たぶん』って……」
「ラグナードのけちんぼ!
わたしの目的を遂げるためには、どうしてもヴェズルングの杖を手に入れなくちゃいけないの!
あれはわたしのためにある杖なんだから!」
「どうしてそうなる!?」
子供じみたへりくつとしか思えず、ラグナードは頭を押さえた。
「だって──世界中の大勢の魔法使いと違って、霧の属性のわたしには、ほかに先人の遺産が何もないんだもん」
キリはしょんぼりと肩を落とした。
「先人の遺産?」
「そう。自分と同じ属性の人が遺した、魔法の書物とか、魔法の道具とか……そういうの。
普通は魔法使いには同じ属性の先輩がたくさんいるから、そういうものはいくつでも手に入るけど、わたしにはヴェズルングしかいない。
わたしの前に霧の属性だった人で、記録に残ってるのはヴェズルングだけだから」
先例があまりない魔法の力を手にしていれば、確かに他にはない苦労をするものなのかもしれないとラグナードは思った。
「だから、いいでしょ? ほかのひとの手に渡るよりずっと安全だよ。ねっ?」
「ちょっと待て!」
必死に頼みこむキリにどなって、ラグナードは大きく嘆息した。
「世界は己のためにあるという教えを真に受ける人間が安全だとは思えないし、お前の目的とやらが何なのかなど聞きたくもないが……ひとつ、誤解しているようなので言っておく」
ガルナティスの王子様は、期待に満ちた少女の目を困惑気味に見つめ返した。
「俺は、ヴェズルングの杖なんて知らないぞ。
ガルナティスで、そんなものが王家に伝わっているという話は聞いたこともない」
「えっ……」
この答えは予想していなかったのか、キリの表情が固まった。
「今、お前の口から初めて聞いたが……うちの王家には、本当にそんなものがあるのか?」
杖の話を耳にしてラグナードが眉根を寄せたのは、しぶっていたわけではなく、まったく覚えのない内容をいぶかしんでいたからのようだ。
「まあ、杖とやらが存在するなら、俺は別にお前にくれてやってもかまわないが」
「えっ♪」
固まっていたキリの顔が輝いた。
こんなチャンスはまたとないとばかりに、キリは食い下がった。
「ガルナティスの王家が杖を守ってきたのは、よこしまな者に渡さないためでしょ?
幸いなことに、わたしの心はとってもキレイだもん」
「いや、ちょっと待て……!」
「杖をくれたら、ガルナティスの代わりにわたしが杖を悪者から守ってあげる。
悪いことにはたぶん使わないから、安心していいよ? ねっ?」
「『たぶん』って……」
「ラグナードのけちんぼ!
わたしの目的を遂げるためには、どうしてもヴェズルングの杖を手に入れなくちゃいけないの!
あれはわたしのためにある杖なんだから!」
「どうしてそうなる!?」
子供じみたへりくつとしか思えず、ラグナードは頭を押さえた。
「だって──世界中の大勢の魔法使いと違って、霧の属性のわたしには、ほかに先人の遺産が何もないんだもん」
キリはしょんぼりと肩を落とした。
「先人の遺産?」
「そう。自分と同じ属性の人が遺した、魔法の書物とか、魔法の道具とか……そういうの。
普通は魔法使いには同じ属性の先輩がたくさんいるから、そういうものはいくつでも手に入るけど、わたしにはヴェズルングしかいない。
わたしの前に霧の属性だった人で、記録に残ってるのはヴェズルングだけだから」
先例があまりない魔法の力を手にしていれば、確かに他にはない苦労をするものなのかもしれないとラグナードは思った。
「だから、いいでしょ? ほかのひとの手に渡るよりずっと安全だよ。ねっ?」
「ちょっと待て!」
必死に頼みこむキリにどなって、ラグナードは大きく嘆息した。
「世界は己のためにあるという教えを真に受ける人間が安全だとは思えないし、お前の目的とやらが何なのかなど聞きたくもないが……ひとつ、誤解しているようなので言っておく」
ガルナティスの王子様は、期待に満ちた少女の目を困惑気味に見つめ返した。
「俺は、ヴェズルングの杖なんて知らないぞ。
ガルナティスで、そんなものが王家に伝わっているという話は聞いたこともない」
「えっ……」
この答えは予想していなかったのか、キリの表情が固まった。
「今、お前の口から初めて聞いたが……うちの王家には、本当にそんなものがあるのか?」
杖の話を耳にしてラグナードが眉根を寄せたのは、しぶっていたわけではなく、まったく覚えのない内容をいぶかしんでいたからのようだ。
「まあ、杖とやらが存在するなら、俺は別にお前にくれてやってもかまわないが」
「えっ♪」
固まっていたキリの顔が輝いた。