キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「わお」

と、目を丸くしてキリが歓声を上げる。

「すごーい」

大きさはキリの部屋にあるベッドほどだろうか。

緑のコケの下から現れたのは、円形のテラスを連想させる美しい物体だ。


つやつやした金属の手すりとそれを支える柱は黒と赤に塗られ、いくつもの宝玉がはめこまれ、鳥の翼を模した豪華な飾り細工が施されている。

一見、どこかの王族や貴族が金に物を言わせて芸術家に作らせた美術品のようだが、複雑な彫刻のごとき模様や、ふんだんにあしらわれまぶしく光を放つ様々な宝石は、魔法のための呪文や宝玉だ。


「本当に飛行騎杖だ」

キリの瞳が朝露のようにきらきらと輝いた。


「飛行騎杖」とは、その名のとおり乗って空を飛べる杖である。

発想としては魔法の空飛ぶ絨毯の能力と、魔法使いの杖を組み合わせて発展してきたものだ。

絨毯は乗っていて楽だがもろく、杖は頑丈だがそのままでは乗りづらい。

そこで、魔法使いの杖を絨毯のように乗りやすい形に作ったものが飛行騎杖で、略して「杖」や「騎杖」、または「飛行騎」などとも呼ばれている。


昔はそのまま四角い絨毯のような形をしていたが、時代とともに姿を変え、今では転落防止の柵を備えたテラスのような円盤状のものが好まれるようになった。


感激した様子のキリを見て、ラグナードが自慢げにフフンと鼻を鳴らす。

「どうだ、初めて見たか?」

「んーん」と、彼の予測した答えを裏切って、キリは首を横に振った。

「エスメラルダにいた頃、いっぱい作られてるの見た」

がっかりするラグナードの前で、キリは首をひねった。

「わたしが見たのは、この半分くらいの大きさだったんだけどな」


世界で出回っている飛行騎杖は、全てエスメラルダ製のものだ。


ラグナードが在野の魔法使いを探すのに苦労したように、現在、優秀な魔法使いはほとんどすべてがエスメラルダの国民だ。

各国の宮廷魔術師にも優秀な人材はいるが、多くても一つの国に四、五人程度。

飛行騎杖の製造には、製造の過程で何十人もの優れた魔法使いの力が不可欠で、そして何十人規模の優れた魔法使いが一つの場所に集っているのは、世界中でエスメラルダのみ。


ゆえに、飛行騎杖はこの魔法の国でしか製造できない。


軽鉱石の空中都市で常に海上を浮遊し国土を持たない現在のエスメラルダは、食料や鉱物資源、魔法の研究にかかる資金を得るために、もっぱらこういった騎杖などを他国に輸出して国の財政を支えている技術国だった。


「飛行騎杖ってもっと小さいものかと思ってたけど……操縦もしたことあるよ」

「なら、別段すごいとも思わないだろう」

ラグナードは憮然とした。

「だってこれ、高いんでしょ?」

キリは恐れ多いものを見るような視線を美しい円盤に注いだ。

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