キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
イレム一帯が空へと吹き飛んだ後、軽鉱石を含む大量の砕けた大地がこの辺りを漂うようになったのだと言われている。
細かい石のかけらに気をつけながら、宙に浮いた山のような岩や、大小様々な岩の塊の間をぬって飛ぶ。
中には植物に覆われた岩や、木が生えているものもあった。
「あれはなに?」とはるか下の岩石が細い糸のようなものでずっと数珠つなぎになっているのを指さして、キリがたずねた。
地上に近い場所では、宙に浮いた岩石同士に橋をわたして固定し、人が渡れるようにしてあった。
「ケノーランドとエバーニアはああやって橋でつながっている」
「大陸の間を歩いて渡れるの!?」
キリが感動した様子で声を上げた。
やがて岩石地帯を抜けて杖はエバーニア上空を飛行し、
昼を過ぎた頃、眼下に広がった真っ白な大地の上空で、ラグナードは飛行騎杖を静止させた。
ゴンドワナを発ってわずか一日半。
二人は氷に閉ざされた炎の土地──パイロープに着いたのだ。
「今ってこっちは初夏のはずだよね……?」
「そうだ」
パイロープ山の麓に杖を降ろし、慎重に歩いて山を登りながら、二人は想像を絶する周囲の光景を見渡した。
「本来なら地熱で真冬でも暖かい火山地帯のはずが──」
一面の銀世界は猛吹雪だった。
初夏の温かな火山地帯と言うより、遭難しそうな冬山だ。
視界が悪い吹雪に覆われたパイロープ山は、直接騎杖で降り立つこともできなかった。
怪物を引きつけておく役に立つかもしれないと言って、杖はラグナードが運んでいる。
巨大な物体を人間が担ぎ上げて歩いている様子は、知らない者が見たら腰を抜かしそうだ。
もともとさえぎるもののない岩山だ。
あらゆる方向から身を切るように冷たい風と雪が容赦なく吹きつけてくる。
ラグナードはマントのフードを深くかぶり、マントにくるまって進んでいるが、怪物に遭遇する前に凍死するのではないかと心配になった。
キリにいたっては編み目になった布を重ねたお出かけ用のひらひらしたスカアトにジャケットだけで、風よけのコートや布すらまとっていない。
長いブーツを履いているものの、腿の辺りは生足をさらしている。
キリは雪の降り積もった足場の悪い大地にヒールの足をとられてよろめきながら、吹きつける風にスカアトが舞い上がるたび、「やあん」と言って手で押さえながら進んでいた。
ピンクの髪と真っ黒なスカアトが白い吹雪の中で舞い踊る様をながめつつ、スカアトなど気にしている場合ではないとラグナードは思うが、本人にとっては寒さよりもそちらが重大事項のようだ。
これだけ視界が真っ白では、霧が出てもわからない気がしながら、二人は黙々と山を登り続け──
異変が起きたのは、登り始めてからほどなくのことだった。
細かい石のかけらに気をつけながら、宙に浮いた山のような岩や、大小様々な岩の塊の間をぬって飛ぶ。
中には植物に覆われた岩や、木が生えているものもあった。
「あれはなに?」とはるか下の岩石が細い糸のようなものでずっと数珠つなぎになっているのを指さして、キリがたずねた。
地上に近い場所では、宙に浮いた岩石同士に橋をわたして固定し、人が渡れるようにしてあった。
「ケノーランドとエバーニアはああやって橋でつながっている」
「大陸の間を歩いて渡れるの!?」
キリが感動した様子で声を上げた。
やがて岩石地帯を抜けて杖はエバーニア上空を飛行し、
昼を過ぎた頃、眼下に広がった真っ白な大地の上空で、ラグナードは飛行騎杖を静止させた。
ゴンドワナを発ってわずか一日半。
二人は氷に閉ざされた炎の土地──パイロープに着いたのだ。
「今ってこっちは初夏のはずだよね……?」
「そうだ」
パイロープ山の麓に杖を降ろし、慎重に歩いて山を登りながら、二人は想像を絶する周囲の光景を見渡した。
「本来なら地熱で真冬でも暖かい火山地帯のはずが──」
一面の銀世界は猛吹雪だった。
初夏の温かな火山地帯と言うより、遭難しそうな冬山だ。
視界が悪い吹雪に覆われたパイロープ山は、直接騎杖で降り立つこともできなかった。
怪物を引きつけておく役に立つかもしれないと言って、杖はラグナードが運んでいる。
巨大な物体を人間が担ぎ上げて歩いている様子は、知らない者が見たら腰を抜かしそうだ。
もともとさえぎるもののない岩山だ。
あらゆる方向から身を切るように冷たい風と雪が容赦なく吹きつけてくる。
ラグナードはマントのフードを深くかぶり、マントにくるまって進んでいるが、怪物に遭遇する前に凍死するのではないかと心配になった。
キリにいたっては編み目になった布を重ねたお出かけ用のひらひらしたスカアトにジャケットだけで、風よけのコートや布すらまとっていない。
長いブーツを履いているものの、腿の辺りは生足をさらしている。
キリは雪の降り積もった足場の悪い大地にヒールの足をとられてよろめきながら、吹きつける風にスカアトが舞い上がるたび、「やあん」と言って手で押さえながら進んでいた。
ピンクの髪と真っ黒なスカアトが白い吹雪の中で舞い踊る様をながめつつ、スカアトなど気にしている場合ではないとラグナードは思うが、本人にとっては寒さよりもそちらが重大事項のようだ。
これだけ視界が真っ白では、霧が出てもわからない気がしながら、二人は黙々と山を登り続け──
異変が起きたのは、登り始めてからほどなくのことだった。