キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
氷の怪物
「変なかんじがする」
後ろを歩いていたキリが吹雪の中で急に立ち止まって、そんなことを言い出した。
「変な感じ?」
ラグナードも足を止め、肩ごしに背後のキリを見た。
キリはキョロキョロと、周囲の真っ白な世界を見回してぶるっと小さくふるえた。
「周りになんかいっぱいいる……!」
「なに!?」
ラグナードが身がまえて、
──次の瞬間、
すぐ近くの地面で、積もった雪がもこもこと動いた。
キリが飛び上がって驚き、ラグナードが腰の剣に手を持っていく。
「何だ……!?」
「ゆ、雪ウサギさんかな……?」
「ばかを言え。ここは岩ばかりの火山地帯だぞ。そんなものは生息していない」
固唾をのんで見守る二人の前で、白い雪はモコモコ動きムクムクふくらんで、
まるい大きな頭ができ、
両腕のような突起が伸び、
二本の足のようなものが生え、
頭にポコポコと目のようなくぼみが二つできて、
ぴょこんと、子供ほどの大きさの雪人形になって雪から飛び出した。
「やあん、かわいいー!」
キリが雪人形に抱きついてほおずりした。
「な……なんだ、コレは……!?」
ラグナードは剣の柄に手をかけたまま、珍妙な雪の生き物を凝視した。
キリに抱きしめられた雪人形は、わきわき短い手足を動かしてもがいている。
「ヨクルだー」
と、キリがその白い生き物のまるい頭をよしよしとなでながら言った。
「ヨクル──?」
ラグナードはぎょっとした。
「真冬にしか出ない雪の妖精だぞ? もうじき夏になるというのに、そんなものまでが……」
ぼうぜんとなるラグナードの前で、ぴょこぴょこと、あちこちの雪から白い雪人形たちがわいて出てきた。
「おい──!」
ラグナードは戦慄しながら、剣を握る腕に力をこめた。
いつの間にか二人の周りは雪人形だらけになって、ぐるりと包囲されていた。
キリに抱っこされた雪人形の目の下に、弧を描いてへこみができ、にっこりと笑っているような顔になる。
できあがった口をかぱっとあけて、キリになでられた雪の妖精はうれしそうに笑い声を上げた。
他の雪人形の頭にも同じように口ができ、次々に妖精たちが笑い始める。
吹雪の中に、無数の笑い声が響きわたった。
「はにゃ?」
雪人形を抱いているキリの前髪がパキパキと音を立て、白く凍ってゆく。
「あらら? らららら?」
続けて、スカアトが、ブーツが、白い氷で覆われ始めた。
「そいつから離れろ!」
ラグナードはあわててどなった。
「ヨクルは、雪山に迷いこんだ者を笑い声で凍らせて殺す魔物でもあるんだ──!」
剣を抜き放ちながらラグナードはそう言って、
「やあん」
キリが雪人形を放り捨ててふるふると頭を振り、髪にはりついた氷を落とした。
後ろを歩いていたキリが吹雪の中で急に立ち止まって、そんなことを言い出した。
「変な感じ?」
ラグナードも足を止め、肩ごしに背後のキリを見た。
キリはキョロキョロと、周囲の真っ白な世界を見回してぶるっと小さくふるえた。
「周りになんかいっぱいいる……!」
「なに!?」
ラグナードが身がまえて、
──次の瞬間、
すぐ近くの地面で、積もった雪がもこもこと動いた。
キリが飛び上がって驚き、ラグナードが腰の剣に手を持っていく。
「何だ……!?」
「ゆ、雪ウサギさんかな……?」
「ばかを言え。ここは岩ばかりの火山地帯だぞ。そんなものは生息していない」
固唾をのんで見守る二人の前で、白い雪はモコモコ動きムクムクふくらんで、
まるい大きな頭ができ、
両腕のような突起が伸び、
二本の足のようなものが生え、
頭にポコポコと目のようなくぼみが二つできて、
ぴょこんと、子供ほどの大きさの雪人形になって雪から飛び出した。
「やあん、かわいいー!」
キリが雪人形に抱きついてほおずりした。
「な……なんだ、コレは……!?」
ラグナードは剣の柄に手をかけたまま、珍妙な雪の生き物を凝視した。
キリに抱きしめられた雪人形は、わきわき短い手足を動かしてもがいている。
「ヨクルだー」
と、キリがその白い生き物のまるい頭をよしよしとなでながら言った。
「ヨクル──?」
ラグナードはぎょっとした。
「真冬にしか出ない雪の妖精だぞ? もうじき夏になるというのに、そんなものまでが……」
ぼうぜんとなるラグナードの前で、ぴょこぴょこと、あちこちの雪から白い雪人形たちがわいて出てきた。
「おい──!」
ラグナードは戦慄しながら、剣を握る腕に力をこめた。
いつの間にか二人の周りは雪人形だらけになって、ぐるりと包囲されていた。
キリに抱っこされた雪人形の目の下に、弧を描いてへこみができ、にっこりと笑っているような顔になる。
できあがった口をかぱっとあけて、キリになでられた雪の妖精はうれしそうに笑い声を上げた。
他の雪人形の頭にも同じように口ができ、次々に妖精たちが笑い始める。
吹雪の中に、無数の笑い声が響きわたった。
「はにゃ?」
雪人形を抱いているキリの前髪がパキパキと音を立て、白く凍ってゆく。
「あらら? らららら?」
続けて、スカアトが、ブーツが、白い氷で覆われ始めた。
「そいつから離れろ!」
ラグナードはあわててどなった。
「ヨクルは、雪山に迷いこんだ者を笑い声で凍らせて殺す魔物でもあるんだ──!」
剣を抜き放ちながらラグナードはそう言って、
「やあん」
キリが雪人形を放り捨ててふるふると頭を振り、髪にはりついた氷を落とした。