キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「あり得ない。いくら旅人にとっては恐ろしい雪山の魔物でも、あんなものに三百人の兵士や宮廷魔術師がやられるとは思えん。
それに、宮廷の広間の鏡に映し出された映像は『白い毛におおわれた巨大な何か』だったんだぞ? どう考えてもヨクルではない」
特徴がかけ離れすぎていた。
「だとしたら──まだ何かがいるってことだよね」
二人は急いで辺りに目を走らせるが、真っ白な雪山はどこまでも吹雪が続いているだけで、巨大な影は何も見あたらなかった。
バタバタとラグナードの深紅のマントが音を立て、キリの長いピンクの髪の毛が舞い踊った。
「とにかく、先に進むぞ」
ラグナードが言って、キリもうなずき、
「ひょっとすると、その怪物も魔法で呼び出されたものかもしれない」
魔法陣が残っていた地面をもう一度ふり返ってから、歩みを再開した。
結局、山頂に向かって日が沈むまで歩いてもそれ以上何も現れず、
その夜は、二人は中腹に見つけた洞穴でビバークすることにした。
洞穴の外の雪に飛行騎杖を埋めて隠し、
ラグナードは火をおこして暖をとろうとしたが、洞穴の中にも外にも、たきぎはおろか燃やすことのできそうな枯れ草一本見あたらなかった。
「魔法でたき火は作れないのか?」
キリにたずねてみたが、霧の魔法使いは首を横に振った。
「わたしにはムリ。
火をおこすこと自体は難しくないから、どんな属性の魔法使いでも呪文を唱えるだけでできるけど、燃やすものもないのに長時間強い炎を出現させ続けるなんて──そんなの、普通は火の魔法使い以外にはできないよ」
「火打ち石と大して変わらないじゃないか」
「そういうこと」
ラグナードは落胆した。
三日の距離を三十歩で移動できるのにたき火一つ作れないとは、便利なのか不便なのかわからない。
「たき火が必要なの?」
「必要に決まっている!」
ガチガチと奥歯を鳴らして、ラグナードはわかりきったことを訊くキリをにらみつけた。
わずかに残っていた外の明るさも夕闇に沈み始め、洞穴の中は真っ暗になりかかっている。
明かりは我慢するとしても、極寒の中でこのまま夜を迎えたら、明日の朝にはまちがいなく凍死している自信があった。
「ふーん」とキリは他人ごとのように言って、懐から小瓶を取り出した。
出かける前に、荷造りだと言って何かをしていた、あの小瓶だった。
「えーと、薪、薪……まだ残ってたかな……?」とつぶやきながら、キリが小瓶のフタを開ける。
たちまちに、
小瓶の口から何か細かいチリのようなものがキラキラ輝きながら飛び出して、
洞穴の中の地面に、薪が積み上がった。
それに、宮廷の広間の鏡に映し出された映像は『白い毛におおわれた巨大な何か』だったんだぞ? どう考えてもヨクルではない」
特徴がかけ離れすぎていた。
「だとしたら──まだ何かがいるってことだよね」
二人は急いで辺りに目を走らせるが、真っ白な雪山はどこまでも吹雪が続いているだけで、巨大な影は何も見あたらなかった。
バタバタとラグナードの深紅のマントが音を立て、キリの長いピンクの髪の毛が舞い踊った。
「とにかく、先に進むぞ」
ラグナードが言って、キリもうなずき、
「ひょっとすると、その怪物も魔法で呼び出されたものかもしれない」
魔法陣が残っていた地面をもう一度ふり返ってから、歩みを再開した。
結局、山頂に向かって日が沈むまで歩いてもそれ以上何も現れず、
その夜は、二人は中腹に見つけた洞穴でビバークすることにした。
洞穴の外の雪に飛行騎杖を埋めて隠し、
ラグナードは火をおこして暖をとろうとしたが、洞穴の中にも外にも、たきぎはおろか燃やすことのできそうな枯れ草一本見あたらなかった。
「魔法でたき火は作れないのか?」
キリにたずねてみたが、霧の魔法使いは首を横に振った。
「わたしにはムリ。
火をおこすこと自体は難しくないから、どんな属性の魔法使いでも呪文を唱えるだけでできるけど、燃やすものもないのに長時間強い炎を出現させ続けるなんて──そんなの、普通は火の魔法使い以外にはできないよ」
「火打ち石と大して変わらないじゃないか」
「そういうこと」
ラグナードは落胆した。
三日の距離を三十歩で移動できるのにたき火一つ作れないとは、便利なのか不便なのかわからない。
「たき火が必要なの?」
「必要に決まっている!」
ガチガチと奥歯を鳴らして、ラグナードはわかりきったことを訊くキリをにらみつけた。
わずかに残っていた外の明るさも夕闇に沈み始め、洞穴の中は真っ暗になりかかっている。
明かりは我慢するとしても、極寒の中でこのまま夜を迎えたら、明日の朝にはまちがいなく凍死している自信があった。
「ふーん」とキリは他人ごとのように言って、懐から小瓶を取り出した。
出かける前に、荷造りだと言って何かをしていた、あの小瓶だった。
「えーと、薪、薪……まだ残ってたかな……?」とつぶやきながら、キリが小瓶のフタを開ける。
たちまちに、
小瓶の口から何か細かいチリのようなものがキラキラ輝きながら飛び出して、
洞穴の中の地面に、薪が積み上がった。