キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「ほら、ヨクルを斬ったときに光ってた、この文字みたいなの」

当たり前のことだという風に言って、キリは刻印がよく見えるように剣を炎にかざした。

「それは聖なる文字だ。
使用者の意志の力を吸収して、この宝玉をはめ込まれた九つの聖なる文字が光り、ヨクルを斬ったように何でも斬ることができると言われている。
魔法の刻印だなどと……」

「刻印の中心にはめ込まれてる宝玉は、先端から順にダイヤ、ターコイズ、真珠、サファイア、ルビー……うーん」

うろたえるラグナードの前で、キリは剣の刻印を調べてうなって、

「違うんじゃないかなあ」

と言った。

「違う? 何がだ?」

「この剣を、魔法使いに渡したことってある?」

「あるわけがないだろう。これは、魔法使いではなく剣士のための武器だ」

「魔法使いなら誰でも気づくと思うんだけど……この九つの文字って、聖なる文字なんかじゃなくて魔法の『封印』だよ」

魔法使いの少女は断言した。

「わたしたち魔法使いが普段大きな魔法を行うときに使う、力の『解放』や『増大』とは真逆の、力の『退行』や『抑制』の呪文が刻印されてるの」

ラグナードは完全に言葉を失った。


「本当なら力の抑制の魔法のためには、第一から第十までの封印があるはずなんだけど……。

九つしか封印がないのは──たぶん鋼の剣そのものを、物質を示す第十の封印と見なして、剣ではない『何か』を剣の形に封印してあるんだと思う」


魔法使いは淡々と説明した。


「ラグナードがヨクルを斬ったときに九つの文字が光ってたのは、持ち主の力に反応してたとか、精神を吸収して光ってたとかじゃなくて、まったくの逆。

持ち主の意志に反応して本来の力を発揮しようとする『何か』を、封印が作動して抑え込んで光ってたってことだと思うよ」


ラグナードは、これまで何も知らずに使い続けてきた己の剣をながめた。


「『何か』とは……なんだ?」

「さあ?」

キリは首をかしげた。

「意志の力に反応する『何か』だと思うけど」

「まさか──霧ではないだろうな」

霧の魔法とおんなじ、という不吉なキリの言葉を思い出して、ラグナードはおののきながら言った。

「さあ?」

キリは無責任にくり返して首をかしげるばかりだった。
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