キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
にわかに不安になるラグナードに向かって、あははとキリは軽い調子で笑った。

「でも、霧って魔法使いにもどうにもならないものだから、魔法で封じて武器なんかにできるとは思えないよ。
ホラ、わたしの霧の魔法はどんな魔法でも消しちゃうって言ったでしょ?
それって、何一つ魔法が通用しない霧の特徴そのまんまだもん」

確かに、霧を魔法で防ぐことに成功したという話は聞かない。
霧の中に迷いこめば生きてもどれないのは、魔法使いも同様だった。

魔法を消してしまう霧を、魔法で剣にするというのは矛盾する話だ。

少しだけほっとするラグナードに、キリはきらきらした目を向けた。

「ね、この封印、解いてみてもいい?」

「な──冗談じゃない!」

とんでもない提案にラグナードは目を剥いた。

「全部封印を解いたら剣の形を保ってられなくなりそうだから……とりあえず第一の封印だけ。ねっ?」

ラグナードはあわてて剣をとりもどそうと手を伸ばした。

「ダメだ! 返せ」

「きっとパワーアップするよ。
何を封じてあるのかわかるかもしれないし、いいでしょ? ねっねっ」

キリはレーヴァンテインをさっとラグナードから遠ざけて言った。

「おまえ、おもしろがってるだろ」

「正体もわからない氷の怪物と戦うんだし、少しでもパワーアップする可能性があるなら、備えは万全にしておいたほうがいいよ、ね?」

キリは明らかに興味本位で封印を解こうとしているだけに思えたものの、一方でラグナードにもその言葉には説得力がある気がした。

「せっかくこんな剣持ってるんだから、ねっ?」

ラグナードは嘆息して、しぶしぶ手を引っこめた。

「封印とやらを解いて、剣が使えなくなったりはしないだろうな」

「だいじょうぶ。なにか問題があったら、すぐに封印をもとどおりにしてあげるから」

ラグナードの頭の中には、年若い魔法使いの軽率な行動が不幸を招く物語やおとぎ話が星の数ほど思いうかんだが、覚悟を決めて任せてみることにした。

正直なところ彼も、剣がパワーアップするかもしれないという話には興味があったし、封印されているという「何か」の正体も気になった。


キリはたき火の中から焦げた木を一本取り出して、洞穴の地面に円や三角形の組み合わさった図形を描いて、そこに剣を置き、目を閉じて息を整えた。

「今回は魔術っぽいマネをするんだな」

これまでキリは、まるで呼吸をするかのような自然さで様々な魔法を使ってみせたが、今回はいつになく本格的だった。

「うん、まあね」

目を閉じたまま、キリはほほえんだ。

「この剣には『術』がかけてあるから、わたしもちゃんとした『術』で解かないと」

そう言って、少女は息を吸い、


閉じていた目を開いた。

< 92 / 263 >

この作品をシェア

pagetop