キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「もともとその剣、石も斬れたの?」

「ああ。というか、俺は普通の剣でも石くらいは斬れる」

「えええっ? そ……そうなんだ……。
ええと、ええと、切れ味が上がってるとか、そういうことない?」

「いや、特にそういう感じもしないが……」

「…………」


二人は無言で顔を見合わせた。


パン、とキリが手を打った。

「よし、忘れよー」

「おい!」

ただちにもとにもどせ! と言おうとして、

ラグナードはのどもとまで出かかった言葉を飲みこんだ。


試し切りで二つになって転がった石の切り口が、ぼんやりと赤く光っていた。


籠手を外してそっと指でつついてみて、指先に触れた灼熱感にわずかに眉をゆがめてすぐに指を離す。

高温で焼き切れている──?


驚いて、ラグナードは手にしたレーヴァンテインに視線を落とした。


このようなことは、これまでなかった。


「おかしいなあ……パワーアップするかと思ったのに……」

向かいでしょんぼりと肩を落としてたき火を見つめているキリにラグナードは苦笑して、剣を鞘に納めて洞穴に立てかけた。

本当に効果はあったようだった。

しかも──


氷の怪物を相手にするなら役に立つかもしれない、といまだ赤い切り口をさらしている石をながめて思った。





いつの間にか洞穴の外は真っ暗になっていた。

吹雪の音が不気味な獣の咆吼のように聞こえている。


たき火の炎はいくぶん体を温めてくれたものの、じっと座っているせいで寒さは一向におさまらず、ラグナードはマントにくるまって震え続けていた。

彼でさえ凍えているのだから、マントもなくスカアトのキリはさぞかし寒いだろうと思う。

気が急いていたためにどこにも寄らずに来てしまったが、せめて防寒着を用意させてやれば良かったとラグナードは少しだけ己を省みた。


「こっちに来たらどうだ?」

と、ラグナードはたき火の向こう側にいるキリに声をかけた。


「凍えているんじゃないのか。マントに入れてやる」

ラグナードのこんな優しい申し出は予想していなかったのか、キリはきょとんとして、

「へいき」

と答えた。


「平気なわけがないだろう」

薄着の少女を見て、強がっているのかとラグナードは微笑する。

「こんなときは、互いに服を脱いで人肌で温め合うものだと言うしな」

美しい目を細めて口の端をつり上げ、彼は甘い声でささやいた。

「こっちにこい」
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