キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
キリは、炎にきらめくエメラルドの双眸を瞬いた。

「服を脱ぐの?」

「まあ、もののたとえだがな」

あまり警戒させてもかわいそうかと、ラグナードはやんわり言って、

「なあんだ。だったらこのままでいいよ」

ぷい、とキリはそっぽを向いた。

ラグナードはあぜんとした。

「『だったら』って……おまえ、どういう女なんだ……!?」

本気で服を脱いで温め合いたいと思っているのだろうかと、かわいい横顔を見つめて彼は困惑する。

「だってそんな鎧着たままじゃ、やだ。
マントに入れてくれても、固くて抱きまくらにならないもん」

「俺をまた抱き枕にするつもりだったのか!?」

ラグナードは嫌な記憶がよみがえって、今夜はこの完全武装を解くものかと心に誓った。

それから、

「まったく……変な女だな、おまえは」

凍えているだろうに、そんな理由でマントに入ろうとしない少女に、彼は苦笑した。

「いいから、もっとそばにこい」

ラグナードはため息をついて、かたくなに動こうとしないキリの横に移動した。

いくらたき火があっても、このままキリを放っておいては風邪をひく程度ではすまないのが明白だった。

「そんな薄着では寒いに決まってる」

「いや、ぜんぜん」

ふるふる、と首を振るキリを見て、ついに彼は実力行使に出ることにする。

「いい加減に強がりはよせ」

乱暴にならないように腕をつかんで、少女の体を引き寄せる。

「うにゃっ?」

とらわれた子猫のように悲鳴を上げてもがくキリを腕の中に抱きこんで、マントでくるみ、

「見ろ。体もこんなに震えて──……ないな」

極寒の中にあって震え一つ伝わってこない小さな体に首をひねって、

いやいや、そんなばかなと思いつつ、彼は少女の手をにぎってみる。

「ほら。手もこんなに冷え切って──……ないだと?」

すぐにむだな抵抗だと理解して暴れるのをやめ、おとなしくラグナードに抱っこされたキリを、ラグナードは信じられない思いで見下ろした。

「な……なんだ? おまえ、やたらと温かいな」

まるで犬か猫を抱いているかのように、薄着の少女の体は驚くほど温かかった。

むしろ、ラグナードのほうがこのまま抱き枕にしたいほどだ。

「なぜだ? コートもマントも着ていないのに……」

体の芯まで伝わる少女の温もりに感動を覚えながら、我慢できずに思わずラグナードがぎゅうっと抱きしめると、「鎧がいたい」とキリは文句を言って、

「うふふー、とっても寒かったから、飛行騎杖を降りてすぐに、魔法で自分の周りの冷気を消したの」

ニコニコと屈託なく笑いながらそう告白した。


ラグナードはかたまった。
< 95 / 263 >

この作品をシェア

pagetop