先生へ -君に詠む愛の歌-
9月29日

今日の全校集会で

貴臣さんが挨拶するため

壇上に立っていた。


本当に行ってしまうのだと

あらためて認識する。


まわりの生徒も

ザワついている。


自然と少し目が潤んだ。

佳央も寂しげな表情で

壇上を見上げている。


貴臣さんが挨拶をする。

マイクを通す貴臣さんの声

初めて聞いた。

最初で最後だね・・・。

今、ひとつひとつのことが

大切に思えるよ。


「10月で私は北海道の
 学校へ行くことになりました。

 君たちは今が一番
 先生や友達や出来事
 いろんなことに影響を受ける
 時期だと思います。

 勉強以外のこともたくさん
 学んで下さい。
 
 たとえ意見の違う人がいても
 否定せずに受け入れることの
 できる人になって下さい。
 
 人の痛みを分かる人に
 なって下さい。

 少しの間でしたが
 ありがとうございました。」



貴臣さんが深々と頭を下げた。


涙を必死に堪えた。



「俺の声で授業
 寝てくれたやつも
 ありがとうな!」


最後に貴臣さんらしい

一言を言って笑顔で壇上を

降りていった。


笑い声が起きて
 
生徒が一気に騒ぎだし

イヤだと泣き叫ぶ生徒もいた。


こうして貴臣さんは

この学校を去っていった。

 
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