桜雪(仮)



『母さん』


あたしには母さんの記憶がない。


家中のアルバムを見て探してみても母さんの写真が出てくる事はなかった。


爺ちゃんや父さんに聞いてもいつもはぐらかされるばかり。



「おばあちゃんは…母さんの事知ってるの?」



「…少しだけ。とても綺麗で優しくて…芯の強い人だった…。」


「……。」



―――母さんの事で唯一覚えている事は…手が温かかったと言うことだけ。



「母さんが…。」


「……。」


「あたし…幕末に行ってくるよ。」



―――あたしは…なぜだかそう答えていた。


今までに感じた事の無いざわめき。



『母さんに会えるかもしれない。』


不意にそう思ったんだ…。



< 9 / 14 >

この作品をシェア

pagetop